第12話

「では、さっき私が邪魔をして暴発してしまったから、まずはイルミナのやり方を見せてくれるか? もしまた暴発しそうなら、私がすぐに止める」

「分かった……」


 私はスライム人形から離れたところに立って、先ほどと同じように、手から力を抜いて、魔力の流れをイメージする。


「ふぅ……グレア――うっ!」


 魔力を放出しようとしたその時、アビスが私の手を掴んで止めた。


「危なかった。今のままでは、また暴発して火傷をしていたぞ」

「そ、そうなのか!?」


 私はアビスの言葉に驚いた。

 

 手先は脱力していたし、魔力の流れもイメージして、あとは解放するだけ。

 手に暴発するほどの熱も感じなかったし、何がいけなかったのだろう……。


「私の何がいけなかったのだ? 手から力は抜いていたから、暴発はしないと思ったのだが――」

「あぁ、確かに魔力を手に送り込むまでは力んではいなかった。だが、イルミナが問題なのは解放の瞬間だ」

「解放の瞬間――?」


 すると、アビスが自身の手を前に出して、魔力について簡単に説明し始めた。


「イルミナ、私と同じように手を前に出してみなさい」

「は……はい……」

「魔力というのは、全身を通る血液のように、常に体中を循環している。そして、それを放出しようとするには、魔力を一点に集中させる必要がある。そこで、魔力を放出しようとせずに、手に力を入れてみてくれ」

「こ、こうか?」


 私は言われるがままに、手に力を込めた。


「そうだ。そうすると、僅かだが、手が微細な振動をしているのが分かるか?」

「た、確かに――細かく震えているな」

「これが暴発の原因だ。魔力を一点に集中させる際、このように手が振動していると、魔力の流れが均一でなくなり、放出する際に暴発してしまうのだ」

「そうだったのか……」


 アビスはそう説明してくれたが、私の考えと大体一致していた。

 力を込めるから暴発する。つまり、脱力が大事なのだと。


「しかし、先ほど私は、ちゃんと脱力をしていたぞ? あれでも暴発していたのか?」


 私が尋ねると、アビスは少し険しい表情を浮かべた。


「あぁ、イルミナは気づいていなかったのかもしれないが、魔力を解放するその瞬間、僅かだが、手に力が入っていた」

「嘘……脱力をしていたと思ったのだが……」

「あぁ、だが、これは仕方のないことだろう。イルミナは元々剣士なのだ。剣は振りかざす瞬間、手に力を込めるだろう? その癖が出てしまっているのだな」

「なるほど――」


 アビスの指摘は的確だった。

 確かに私は剣を振るう時、剣を握る力を強め、手に力を込める。

 まさかそれが癖として出てしまっていたとは……。

 どちらにせよあの時、解放していれば私は暴発していたということか……。


「我が軍でも、剣と魔法の両方が使えるものは少ない。両方を極めようとすると、両方ともダメになってしまうことが多いからな」

「……」

「ん。そう落ち込むことはない。イルミナの剣技は、18年間の弛まぬ努力で、その身に染み付いている。だから、ここから魔法を極めても剣の腕が落ちることはないし、魔法だって使えるようになる」

「本当か――?」

「はっはっは! 本当だとも! 何せコーチはこの私だ! 私が教える以上、魔法が使えないなど決してない! だから安心しろ」

「あぁ――」


 アビスの言葉を聞いて、私は魔法が使えないのかと落ち込んだが、少し希望を持てた。


「ふんっ。では、まずは私が手本を見せよう。百聞は一見にしかず。何事も見て学ぶものだ」


 そう言って、アビスは私の列の隣にある魔族サンドバッグの方へ行き、水晶をいじって設定した。

 すると、ただの白い人形だったサンドバッグが、みるみるうちに姿を変えていく。


「えっ――えぇっ!?」


 その姿を見て、私は思わずそう声を上げてしまった。

 なぜならアビスが設定したのは、訓練場をほとんど覆ってしまうほどのドラゴンだったからだ。


「はっはっは! 大丈夫、襲っては来ない」

「わわわ分かっている――!」


 聖騎士時代でも、こんなドラゴン見たことがない。

 というかそもそも、ドラゴンを聞いたことはあっても、実際に対峙したことはなかった。


「ではイルミナ」

「んっ、はい」

「私の手をよく見ておくのだぞ?」


 そう言ってアビスは手を前に向けた。


「――っ!? な、なんだ!?」


 その瞬間、アビスからただならぬ魔力を感じた。

 私の目に映るアビスは、いつものアビスではなく、全身に真っ黒のオーラを纏った、魔王そのものだった。


冥暗ヴォイド


 アビスがそう口にすると、アビスの手先から、一切の光をも反射しないほどの黒い物質が現れ、それが凄まじい速さでドラゴンの方に飛んでいった。

 直後、黒い物質が足に直撃したドラゴンが、足から徐々に漆黒に飲まれていく。

 やがて、漆黒が全身を覆ったかと思えば、まるで灰のようにして風に乗って空へ飛んでいってしまった。


「なっ――はっ――」


 私は驚きで声が出なかった。

 強すぎる……これが魔王……これが魔族の頂点に君臨する者の真の力なのだと。


「ふぅ――ってあぁぁぁあああ!!!?」


 すると、なぜかアビスが叫び出した。


「魔族サンドバッグ……サンドバッグごと消してしまった……あれ高いのに……」


 そう言って、アビスは膝を地面につけて顔を青く染めていた。

 良かった……いつもの情けない魔王に戻ったと、私は内心少しホッとした。

 私はそんなアビスの元に近づく。


「す――凄かったな。流石は魔王だ……」

「あ……あぁ……」


 アビスはサンドバッグを破壊してしまったのが相当ショックだったのか、フラフラと足を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。


「……どうだ? 参考になっただろうか?」

「あぁ。確かに魔力を解放する瞬間、アビスの腕は微動だにしていなかった。ただ脱力をしているのではなく、暴発しない程度、ほんの僅かに力を入れて、魔力を制御しているのだな?」

「ははは。1回でそこまで理解したか。流石はイルミナだ。やった甲斐があったよ」


 すると、アビスが自分の手のひらを見つめながら告げる。


「私の固有魔法は闇。対して、イルミナの固有魔法は光だったか。これらは、一見対照的な魔法に思えるかもしれないが、魔力制御や解放など、その本質は近しいものがある。きっとイルミナは、すぐに魔法が使えるようになるさ。だから、自信を持って訓練に臨むと良い」


 その言葉は私の心に深く突き刺さった。

 

「アビ――ひゃっ!?」


 だが、私を励ましてくれようとしたのか、私の肩にアビスがポンと手を置いた。

 肩は敏感だから、突然触られて、私は思わず声を上げてしまった。


「あぁ! すまない! 全くその気はなくて、ただ応援しようと――」

「――分かっている。私が大袈裟だっただけだ。気にしないでくれ……」



 

 そうして、アビスに手本を見せてもらった私は、再びスライムの前に立って構える。


「ふぅ……大丈夫――」


 私は深呼吸をして、一度体を落ち着かせる。

 全身に流れる魔力の流れを、手の先に集中させるイメージ……。

 手の先に熱を感じても慌てず脱力……。

 そして、剣士の癖で解放時に力を入れないよう、最後も気を抜かず脱力……。


閃光波グレアブラスト


 直後、私の手の先から、眩い光が現れた。

 光は凄まじい速度で進み、目の前にいるスライムに直撃する。

 すると、光の直撃した部分のスライムが飛び散り、光がスライムの体を貫通した。

 これが致命傷になったのか、スライムはその場で爆散した。


「はっ! やった――」

「凄いではないかイルミナ!」


 私の邪魔をしないようにと、影で見守ってくれていたアビスが姿を現し、駆け寄ってくる。


「「イェイ!」」


 私たちは嬉しさのあまり、ハイタッチを交わした。


「凄い――アビスのおかげだ! ありがとう!」

「いやいや、これはイルミナの実力だ! おめでとう!」

「ふふっ――」


 今まで出来なかったことが出来るようになると、こうも嬉しいものなのだろうか。

 私は思わず笑みが零れた。


「では、今回の訓練はこの辺で終わりにしておこう」


 すると、アビスがこんなことを言い出した。


「えぇっ!? まだ全然訓練出来ていないぞ!?」

「あぁ、だがイルミナ、お前の体には、もう魔力があまり残っていない。もしこのまま続けて魔力切れを起こせば、今日一日寝込むことになってしまうぞ?」

「そ……そうなのか!?」


 アビスの説明に私は驚いた。

 魔法は全く使ってこなかったから、魔力切れを起こすとどうなるかなど、私は全く知らなかったのだ。


「あぁ、魔力は体力とは違うからな。すぐに回復するものでもない」

「まだ暴発したのと、成功した一発しか撃っていないが、もう魔力切れしそうなのか……?」

「そうだな。イルミナは、聖騎士時代、魔法を禁止されていて、あまり魔法を使えなかったのだろう? だから、体内を巡る魔力量が、魔族に比べて圧倒的に少ないんだ」

「そんな……」

「そう落ち込むことはない。魔力だって体力と同じように、毎日鍛錬を積めば、徐々に魔力量は増えていく」

「そうなのか……?」

「あぁ、だから毎日少しでも良いから、魔力を使うことだな」

「分かった! 努力は得意だ!」

「ふっ。くれぐれも無茶をしてはいけないぞ?」

「分かっている!」


 こうしてこの日、私はアビスのおかげで、初めて自分の魔法を使うことが出来た。

 魔法や魔力についても、色々と詳しく教えてもらえたし、これで私も少しは魔王軍の皆に近づけた――だろうか?

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