第5話

 私は目の前にいたリシアに声をかける。


「なあリシア、アビスはどこに行ったのだ?」

「あぁ、魔王様なら、この後用事があるからって、ランスを連れて出ていったよ」

「そ……そうか……」


 少しの沈黙の後、リシアが微笑みながら話した。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。魔王様はスケベで下心丸出しの変態だけど、一線は超えない人だから」

「いっいや! 別にそういうことじゃなくて――」

「おいイルミナ!」


 すると、奥からセヴァーが呼ぶ声が聞こえてきた。

 私はアビスから受け取った剣を腰に下げ、セヴァーの元へ向かう。


「なんだ?」

「なんだじゃねえよ。お前、人間なんだろ?」

「……そうだが」

「人間が魔王軍に入ってきたかと思えば、いきなり魔王様直属の護衛に任命されただ?」


 セヴァーの言葉には、どこか棘があるように感じる。

 

 まぁ、人族と魔族は古くから敵対関係にある。

 そんな人間が、いきなり魔王直属の護衛……言うなれば魔王軍の幹部となるわけだから、私を嫌うのも無理はないか……。


「お前、人間がこんなところにいきなり連れてこられて、怖くはないのか?」

「――え?」

「だから、魔族は人間と違って、好戦的で荒々しい奴が多いけど、怖くはないかって聞いてるんだよ」


 あれ――もしかしてセヴァー、私の心配をしてくれているのか?


 すると、リシアが少し困った顔をしながら話した。


「ごめんねイルミナ。セヴァーはこう見えて、人間が好きでさ。きっとイルミナのことを心配してるんだよ」


 そうだったのか――。

 見た目や喋り方の厳つさから、勝手に私が嫌われてるものだと思ってしまったが、人間が好きだったのか。


 私は見た目で決めつけてしまったことを、心の底から恥じた。


「どうした? 大丈夫か?」

「――あぁ。私は元第一聖騎士団長だぞ! 魔族に臆する精神なら、そもそも魔王の護衛になどなっておらん!」


 そう言うと、セヴァーは豪快に笑いだした。

 

「あっはっはっはっは! 弱い人間も好きだが、強い人間はもっと好きだ!」

「なっ! す、好きって言うな――」

「あっはっはっは! 免疫無さすぎるだろ! どんな人生を送ってきたんだよ!」

「うぅ……」

「はぁ面白ぇ。まぁいい、俺はお前の強さに興味がある! 今日はもう仕事ねえから、ちょっと訓練場でお前の強さを見せてくれよ!」


 するとセヴァーはこんなことを言い出した。

 確かに、私自身も、エスペラー王国では第一聖騎士団長にまで上り詰めることが出来たにしろ、この魔王軍ではどれほど通用するのか気になる。

 それに、他の皆がどれほどの力を持っているのかも、確認できるかもしれない。


「ちょっとやめなさいよ! セヴァー!」

「そうだよ! イルミナは色々あってもう疲れてるよ! 休ませてあげないと――」


 2人は私を心配してそう言ってくれているが、私の答えは決まっている。


「良いだろう。私の力が、魔王を守るに値するのか、私自身も確認しておく必要があるしな!」

「あっはっはっは! ノリが良いな!」

「イルミナ、無理しなくて良いんだよ?」

「心配するな! 人間でも、この程度で疲れたりはせん!」


 すると、トクシーとリシアは、顔を見合わせる。


「それじゃあ、私たちも行くよ!」

「私たちもイルミナの強さ見たいし!」


 こうして、私たちは4人で訓練場に向かうことになった。


 訓練場に向かう途中、魔王城内から、訓練場の様子が見えた。

 見ると、まだ成人していなさそうな人魔族の者たちが、一生懸命に剣を振ったり、魔法を使ったりしている。

 流石は魔王軍。

 若い頃からの戦闘教育をしているからこそ、魔王軍の戦闘部隊は、個々の戦闘力が高いのだろうと、思わず感心してしまった。




 そうして私たち4人は、訓練場にやってきた。

 どうやらセヴァーによると、あの大勢の訓練生がいた訓練場とは別に、魔王の護衛専用の訓練場があるらしい。


 専用訓練場にやって来ると、セヴァーが扉に手をかける。


「おぉ……凄いな――」


 そうして開かれた扉の先にあったのは、4人では持て余しすぎてしまうほどに広い土地だった。

 見れば、私の知らない訓練器具のようなものが置いてある。


 セヴァーに案内され、私たちは中に入った。


「それで、強さを見せるって、具体的に何をするのだ? 決闘か?」

「いや、対人は怪我したら危ねえし、俺たちでも滅多にやらねえ」


 それならどう力を見せるのだろうと思ってセヴァーに着いていくと、セヴァーがやってきた先は、変な人形が複数並べられた場所だった。

 それは、棒のようなものに白い人型の人形が突き刺さったような奇妙な人形。


「これは……?」

「まぁ見てろって」


 私が問いかけると、セヴァーはその場から離れて、人形の横にある机の方へ向かって歩いた。

 そうして、セヴァーが、机の上にある水晶に指を触れ、なぞるようにして指を動かす。


 直後、何の変哲もない白い人型だった人形が、ムクムクと動き出して、やがて何かの生物に姿を変えた。

 そして、操作を終えたセヴァーが、私たちの元に戻ってくる。

 

「こ……これは――」

「あぁ、訓練用の魔族サンドバッグだ!」

「魔族サンドバッグ――?」

「そうだ! 魔族サンドバッグは、ただのサンドバッグじゃなくて、人魔族とか悪魔族とか、色んな魔族に姿を変えられるんだ! しかも、あのサンドバッグは、変身した姿の魔族が死ぬダメージを与えないと壊れない。今は獣魔族のウェアウルフに設定したから、ウェアウルフが死ぬ攻撃をすれば、サンドバッグが壊れるっていう仕組みになってるんだよ!」


 私はその説明を受けて驚いた。

 まさかここまで精巧な訓練器具が備わっているとは。

 少なくともエスペラー王国には、ここまでのものはなかった。

 むしろ、主に対人訓練が基本で、このような人形で訓練をするのは、入ったばかりの訓練生だけだった。


 するとセヴァーは、他の3つの人形も、ウェアウルフになるよう設定した。


「よし! それじゃあ1人ずつ、あのサンドバッグに攻撃していくか!」

「え!? 私たちもやるの!?」

「当たり前だろ! イルミナにだけやらせる気かよ!?」

「分かったよ……」

「よし!」


 2人はあまり乗り気ではなかったが、セヴァーの押しによって、強制的に参加させられることになった。


 すると今度は、セヴァーが地面にかかとを突き刺して、そのまま足を引いて線を引き始めた。

 セットされた4つの人形から、10メートルほど離れたところに線を引き終えると、こんなことを言い出した。


「よし、それじゃあ全員、この線より後ろから魔法撃って、あのウェアウルフを仕留められればクリア、ってことで良いな?」

「線より後ろから魔法――魔法っ!?」


 私はそのルールを聞いて思わず声を上げた。


「あ? どうした?」

「い、いや、なんでもない」

「そうか……じゃあ、俺、トクシー、リシア、イルミナの順でやるから、全員順番通りに並んでくれ〜」


 そうして私たちは、セヴァーの言う順に横に並んだ。

 

 まずい……てっきり剣で実力を見せるものだと思っていたのに……。


 ここから私は、皆の前でとんでもなく恥ずかしい失態を犯すことになる。

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