第6話
「それじゃあ、まずは俺からだな!」
私は募る不安を抑えつつも、セヴァーの方を見る。
すると、セヴァーはそう言って、ウェアウルフの人形の方をじっと見つめる。
魔法と言うから、手から何かを出したりするのかと思えば、セヴァーは手をズボンのポケットに突っ込んだままだ。
すると、セヴァーが口角をつり上げてニヤリと笑った。
「
セヴァーがそう口にした直後、セヴァーの前方のウェアウルフの人形が、胴が切り離されて崩れ落ちた。
「なっ!?」
私はその一瞬で、何が起こったのかを理解できず、開いた口が塞がらなくなっていた。
そして、胴を切り離されたウェアウルフは死亡が確定したからか、その人形は白い煙を上げて爆発した。
「あっはははは! やっぱりウェアウルフなんかじゃ練習にならねえな!」
セヴァーは口を大きく開けて笑っていた。
「一体――何が……?」
「あ? イルミナ、気になるか?」
私が驚き、声を漏らすと、そんな私に気づいて、セヴァーが声をかけてきた。
「あ、あぁ。一体、今何をしたのだ?」
すると、セヴァーはニヤリと笑って、ポケットに突っ込んでいた手を出し、鋭く尖った爪を見せながら話した。
「今のは俺の切断魔法だ」
「せ……切断魔法――?」
「あぁ、俺の切断魔法は、魔力を使って目に見えない鋭い刃を作り出す。目に見えないから、相手は斬られたことにも気づかない。切断されて視界がズレてから初めて斬られたことに気づくってわけだ」
「な――なんと……」
セヴァーの説明に私は声も出なかった。
セヴァーの使う切断魔法は、あまりに凶悪すぎる。
少なくとも、私が人魔族の魔王軍と戦った時、ここまで洗練された奴はいなかったぞ。
控え室で見た時は、ただのふざけている男にしか見えなかったが、これが魔王直属の護衛の真の実力か。
私は、魔王軍の真の力を知らない、井の中の蛙だったのだと、この時思い知らされた。
「それじゃあ次私いくよ〜」
トクシーが手を挙げてそう言った。
セヴァーでさえあれほどの実力。
トクシーもリシアも、あまり強そうには見えなかったが、同じ魔王直属の護衛である以上、とてつもない力を持っているのだろう。
私は目を開いて、じっとトクシーの様子を見つめた。
「なっ!」
直後、あの明るくおちゃらけた性格のトクシーの目が、ギラリと鋭く光る。
トクシーの体からは、黒紫色のオーラのようなものが滲み出ているのが分かる。
トクシーは、右手を前に出すと、人差し指と親指を付けて丸めた。
すると、トクシーの右手の前に、小さな紫色の弾のようなものが現れる。
「
トクシーがそう言うと同時、人差し指でその弾を弾くと、勢いよくウェアウルフの人形へと飛んでいく。
次の刹那、弾が命中したウェアウルフの体が、徐々に紫色に変色し始めた。
そして、ボロボロと内部から腐敗し、やがて人形は爆散した。
「なっ……す、すごい――」
「驚いたか? ありゃあ毒魔法だ。今のは、あいつの毒を凝縮して小さな弾にし、体の内部で爆発させて体を侵食するって技だな」
「おぉ――」
私はセヴァーの説明を聞くが、凄すぎて言葉が出なかった。
トクシーが普段おちゃらけているからか、余計に普段とのギャップから、凄みが増して見える。
「それじゃあ次は私か……」
そう言ってリシアが一歩前に出た。
だが、リシアは他の2人よりもさらにやる気がなさそうだった。
「はぁ……私のは攻撃用の魔法じゃないんだけどなぁ……」
そう言いながらも、リシアは右手を前に出した。
すると、リシアの前方にあるウェアウルフの人形を閉じ込めるかのようにして、周りにうっすらと結界のようなものが現れる。
やがて、その結界はハッキリと視認できるほどにまでなり、陽の光の反射が、その結界の硬さを物語っていた。
「
リシアがそう口にした瞬間、ウェアウルフを囲む結界が徐々に小さくなっていく。
そうして、ウェアウルフの人形の体が、結界の圧縮によってどんどんと押しつぶされていき、何かが砕けるような鈍い音が鳴り響くと同時、ウェアウルフの体が結界の圧縮に限界を迎えたとき、結界の中で、白い煙をだしながら人形が爆発した。
「はぁ……」
リシアが手を下ろすと、結界も姿を消し、中からグシャグシャになった人形だけが現れる。
「凄い――結界をあんな攻撃に使えるなんて――」
「あははははっ! こいつ、攻撃用じゃないとか言っておいて、俺らより残酷な攻撃してるじゃねえか!」
「何? やれって言ったからやったんでしょ!」
皆の凄さに見惚れていると、あっという間に私の番が来てしまった。
というか、どうして私が一番最後なのだ!
皆魔族として、凄まじい技を披露したのに、その後に人間の私!? こういうのは普通、私が最初ではないのか!?
募る不安と緊張を押し殺し、私は一歩前に出て、線の前に立った。
はぁ……上手くできるかな……。
私は心の中でため息をつく。
「ねえイルミナ、大丈夫? なんか震えてるけど……」
すると、トクシーが私にそう声をかけてきた。
「えっ!? あ、だ、大丈夫大丈夫! ちょっと緊張してただけ――」
私は再び前を向く。
――いや、何を弱気になっているのだ私!
私は元第一聖騎士団長! こんなプレッシャーなど、幾度と経験してきたではないか!
相手は動かぬ人形! 数多の戦場を越えた私なら……出来る!
私は自分にそう強く言い聞かせ、自信を取り戻す。
そして、皆と同じように右手を前に出して構え、手に力を込める。
「
私がそう叫ぶと同時、力を込める右手の手のひらに熱がこもる。
これはいけると思った次の瞬間……。
「痛っ!!!」
私の右手が、パンッと何かが弾けるような音を立てて、灰色の煙をあげた。
私の右手に、焼けるような痛みが走る。
「だ、大丈夫!?」
「イルミナ!」
「おいおい! 大丈夫か!?」
私は右手を押さえながら、その場に蹲る。
「くぅっ――」
「大丈夫かイルミナ! ちょっと手のひら見せてみろ」
心配してセヴァーが私の手を優しく掴んだ。
私はゆっくりと手のひらを開くと、そこには真っ赤に爛れた火傷跡のようなものがあった。
「こりゃ痛えな。トクシー、倉庫から回復薬持ってこい」
「分かった!」
皆が私なんかの為に動いてくれている。
嬉しかったが、皆に迷惑をかけてしまって、申し訳なさで泣きそうになった。
「ほらこれ!」
少しすると、トクシーが倉庫から回復薬を持ってきてくれたようで、セヴァーに手渡す。
「ちょっと痛むけど我慢してくれよ?」
「う……うん……」
セヴァーが瓶の蓋を開け、中に入っている液体状の回復薬を、私の手のひらにかけた。
多少染みて痛かったが、目を瞑って、歯を食いしばりながらなんとか耐えた。
「よし、治ったぞ」
セヴァーの声に、私は閉じていた目をゆっくりと開ける。
見ると、私の手のひらにあった火傷跡は、跡形もなく綺麗に消えていた。
「皆……ごめんなさい……」
私はその場に座って、皆に頭を下げた。
「大丈夫! 大丈夫!」
「私たち仲間なんだから、助け合ってこ〜!」
「――ありがとう」
すると、セヴァーが申し訳なさそうな顔をして私に話しかけた。
「悪い悪い! もしかしてイルミナは、魔法とか苦手だったか?」
「う……うん……」
そこに、トクシーが不思議そうな顔をしながら入ってくる。
「人族って魔法使えなかったっけ?」
「いや、人族も人魔族も、元を辿れば同じ血だから、人族にも魔力自体は流れてる。けど、私の国では魔法が禁止されてて……」
そう言うと、3人は驚いた顔をした。
「えぇっ!? イルミナがいた国では、魔法禁止されてたの!?」
「でも、魔法を使う人間も見たことあるぞ!?」
「……」
私は、少し過去のことを思い出した。
私のいたエスペラー王国では、魔法を使うこと自体が禁止されていた。
先ほど言ったように、人族も人魔族も、元々は同じ種族……だが、いつからかそれらが分裂し、人族と魔族というように分類されるようになってしまった。
魔力というのは、体力と同様、使えば使うほど増えていき、使わなければ魔力量は少なくなっていく。
人族が完全に魔族から独立した種族になるためと、私の王国では魔法が禁止されていたのだ。
しかし、私はせっかく生まれ持ったこの魔力を、使わないのは勿体ないと思い、皆に見つからないよう、隠れて魔法の練習をしていたのだ。
だが、それに気づいたのは私が19の頃。
生まれてから19年間も魔力を使わず、また剣に体が馴染んでしまったからか、気づいた頃には、全く魔法が使えなかった。
それでも、僅かに空いた時間に魔法を練習していたおかげか、ほんの僅かだが、私の固有魔法【光】を使えるようになった。
それでも、指先から少し光が出る程度。
実用するには程遠いものだった。
それらを皆に話すと、皆が私に同情の言葉をかけてくれた。
「そんなことが……大変だったんだね……」
「気づいてあげられなくてごめんね……」
「いやいや! 私が変にプライド張って言わなかったのが悪いから、皆謝らないで!」
すると、セヴァーが私に問いかける。
「じゃあつまり、剣は得意ってことか?」
「あ、あぁ。剣なら魔法よりかは……」
「よし! じゃあイルミナの剣術を見せてくれ!」
そう言うセヴァーに、トクシーとリシアが怒る。
「ちょっとやめなよセヴァー!」
「そうだよ! イルミナは今怪我したばっかりなんだよ!? 休ませてあげないと……」
「大丈夫だよ2人とも」
私は2人にそう言いながらゆっくりと立ち上がる。
「これから魔王の護衛になるのだ。魔法はダメダメだったが、剣は振れるというところを、皆に是非とも見せたい」
「そ……そう、無理しないでね?」
「じゃあ、私たちは離れようか……」
「あっはっはっは! いいねぇ!」
私の力強い意志に、反対する者はいなかった。
そうして私は、この3人に、真の実力を見せつけることとなる。
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