第4話

「ここが護衛控え室……」


 魔王城内をしばらく歩き、私たちは護衛控え室にやってきた。

 魔王直属の護衛ということは、この奥にいる者たちも、きっと歴戦の猛者なのだろう。

 一戦闘者として興味はあるが、その前に共に魔王の護衛として働く仕事仲間になるのだ。

 こうして顔を合わせるとなると、なんだか緊張する。


 そんな私の様子にリシアが気づいたようで、声をかけてくれた。


「あはは、そんな緊張しなくて良いよイルミナ。全然大した奴らじゃないから」


 私を気遣ってそうは言ってくれるものの、やはり私は人間。

 嫌われたり、距離を置かれたりするのではないかという不安が募る。


「で、でも――はっ!?」


 その時、扉の向こう側から、凄まじい怒鳴り声が聞こえてきた。


「うっぜえな! それ反則だろうが! どうなってんだよ!?」

「反則じゃないよ。ちゃんと説明書読めば?」


 反則? 説明書? なんの話をしているのだ!?

 

 私が困惑する中、リシアが扉に手をかけ、ゆっくりと控え室の扉を開いた。


 扉を開けた先にいたのは、机を挟んで椅子に座って向かい合う2人の男。


「俺そのルール知らなかったから、さっきのはなし!」

「知らない方が悪いでしょう……」


 見ると、何かを机の上に置いて動かしている。


「ぼ――ボードゲーム?」

「ん?」

「あ?」


 私がそう口にした次の瞬間、2人が私たちに気づいて顔を向けた。


「え? 誰?」

「お前魔王様の話聞いてなかったのかよ……人族の元聖騎士団長、イルミナ=ルーシーだよ」


 どうやらアビスが、既に皆に話を通していたようで、右に座る男は私の存在を知っていた。


「ちょっと! なんで昼間っからボードゲームなんかで遊んでるの!?」

「暇だったから――」

「もう! しかもあんたこれから仕事あるでしょ! もっと緊張感持ちなさいよ!」


 リシアが2人の元に歩いていって、説教をした。


 なんというか……魔王直属の護衛であるはずなのに、全く威厳とか、緊張感のようなものがない……。

 まぁ、自由で良いのだが――。


「ほら、イルミナ、こっち来て」


 リシアが手招きをして、私のことを呼ぶ。

 私は小走りで皆の元へ向かった。


「きょ、今日から護衛として働くことになったイルミナ=ルーシーだ。よろしく……」

「なんだ? 緊張してんのか?」


 すると、左に座る銀髪の男が笑いながらそう言った。


「あっはっはっは! 人族は礼儀正しくて可愛いな!」

「お前が礼儀正しくないだけでしょ!」


 すると、メガネをかけた青髪の男が話し始めた。


「僕はランス。この護衛チームのリーダーさ。人族であろうと、仲間が増えるのは嬉しいよ、これからよろしくね」


 ランスがそう言うと、左の男がランスに噛み付くかのように言った。


「あ!? お前何言ってんだ!? 俺はセヴァー。俺こそがこの護衛チームのリーダーだ。よろしくな!」

「よ、よろし……」

「何を言ってるんだ。ボードゲームもまともに出来ない君がリーダーなわけないだろう! 僕がリーダーだ!」

「俺がリーダーだ! ボードゲーム出来たからってリーダー気取ってんじゃねえぞ!?」


 なぜか、いきなり男2人で口論が始まってしまった。

 困惑する私に、トクシーとリシアが耳元で囁いた。


「なんかあいつらリーダーとかなんとか言ってるけど、全然気にしなくていいからね?」

「別にリーダーとかないし、普通に接してくれればいいから」

「わ……分かった……」


 困惑していた私だったが、なんだか、賑やかな職場だなと、思わず微笑んだ。


「おぉ、お前たち、ここにいたか」


 その時、私たちの背後から声が聞こえてくる。

 振り返ると、そこに立っていたのは魔王アビスだった。


「イルミナ! 衣装が決まったのか!」


 そう言うアビスだったが、私の衣服を見て、どこか不満そうな顔を浮かべる。


「うむ……欲を言えばこう、トクシーのような、もう少し露出度の高いものでも良かったのではないか?」

「ですよね! 絶対イルミナ似合いますよね!」

「2人とも?」


 その時、リシアが魔力を手に込めて、黒紫色の何かを手に生成すると、黒い笑みを浮かべながら2人の方に歩いていった。


「あぁ! 嘘嘘嘘嘘! 冗談だ! 冗談!」


 アビスが慌ててそう口にする。

 部下……ましてや直属の護衛に脅されるなど、あって良いものなのかと、私は少し疑問に思った。


「そうですか。なら良かったです」

 

 すると、リシアは魔力を抑え、元の表情に戻った。


「ふぅ――それにしても、よく似合っているではないか。イルミナらしさが出ていてなお良い」

「そ……そうか――」

「はっはっは! そう硬くなるな! これからよろしく頼むぞイルミナ――」


 アビスはそう言って、私の肩に手をポンと置いた。


「ひゃっ!!!」


 その時、私は肌が露出していて敏感な肩を急に触られて、反射的にそう叫んでしまった。

 体が一瞬ビクンと跳ねた後、私は瞬間的にアビスから離れる。

 そんな私の異様な行動を、アビスは目を点にして見ていた。

 すると、リシアが怒った表情で、アビスに説教をする。


「ちょっと魔王様! 女子の体に勝手に触れるのはご法度ですよ!」

「えっ!? い、いや、そんなつもりは――」

「イルミナは人間だから、私たちと違って敏感なんですよ! だから、そんな肌が露出したところを急に触ったら、あんな反応しちゃいますよ! それに――」

「あぁぁああ! リシア! 大丈夫! もう大丈夫だから!」


 これ以上リシアに話させると、もう私が恥ずかしくて死んでしまう。

 私は必死にリシアの口を閉じた。


 はぁ……元聖騎士団長たる私が、こんなことで顔を赤くして声を上げてしまうなんて……。

 情けなくて嫌になる……。

 仮にも私は元聖騎士団長なのだ、次からは気をつけなければ――。


「え〜、イルミナ肩弱いの〜? えい!」

「ひゃぁあっ!!! やっ、やめっ――」


 その時、トクシーがニヤリと笑って、私の両肩を撫で回すようにして触った。

 私は必死に身をよじるが、トクシーが執拗に私の肩を触ってくる。


「おりゃおりゃ〜」

「ひゃっ! ちょっと、ほんとっ――やめっ……」

「ほぉ――」


 その時、アビスは頬を赤らめながら、そんな私たちの様子を見ていた。


「魔王様?」


 リシアが突き刺すような視線を向け、アビスが正気に戻る。


「なっ! なんでもない! 別に見ていないぞ!」

「頬が赤いですよ?」

「きっ! 気のせいだ!」

「ふぅん……」


 そこで、リシアがハッとしたような顔でアビスに尋ねる。


「そういえば魔王様、何か用があるんですか?」

「あぁ! そうだった! イルミナ!」


 その時、アビスが私のことを呼んだ。

 その声で、トクシーがようやく私の肩から手を離した。

 私は緊張の糸が切れ、体から力が抜けて、そのまま床にへたり込んだ。


「はぁはぁはぁ――」

 

 すると、アビスが何かを持って私の元にやって来た。


「これ、お前の愛用していた剣だろ――うっ!」


 そう言って、アビスが差し出したものは、かつて私が聖騎士だった頃に愛用していた剣だった。

 だが、なぜかアビスは私の顔を見るなり、目を手のひらで覆って隠した。


「私の剣――どうして……?」

「お前をここに連れてくる時に、一緒に持ってきたのだ。大事にしているだろうと思ってな」


 私はアビスから剣を受け取り、フラフラと立ち上がる。


「むっ――アビス、なぜ目を隠す?」

「いや――別になんでもない……」

「なんでもないなら目を隠す必要ないだろう」


 すると、トクシーが妖しい笑みを浮かべながら、私の耳元で囁いた。


「きっと、イルミナは今、魔王様の開けちゃいけない扉を開けちゃったんだよぉ」

「扉――?」

「だってぇ、好きな女子が目の前で弄ばれてるんだよぉ? しかもあんなエッチな声出しちゃったら、扉開いちゃうよ〜」

「なっ!」


 私はそれを聞いて、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

 恋や性とは無縁な人生を送ってきた私だからこそ、その意味を理解した時、余計に恥ずかしかった。

 気がつけば、アビスは私の前から姿を消していた。


「はぁ……もう……」


 私は、アビスの扉? とやらを開けてしまったのか。

 この先、私は無事にここで働いていけるのだろうか……。

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