第15話 門の守護者、歪んだ生徒の正体

 校舎東棟三階――旧講義室前。


 廊下にはすでに白い結界が張られ、生徒会役員が警戒に立っていた。


 その先、空間の一角が揺れている。まるで現実が“捻じれて”いるかのように。


「ここが……“門”の座標」


 俺は足を止め、目を細めた。


 黒い印は床一面に広がり、まるで誰かの“血文字”のように刻まれていた。


「空気が違う……ここだけ、温度が低い」


 ユリアが剣に手をかけた瞬間――


 ギギッ……


 扉が、ひとりでに開いた。


 中から現れたのは、制服を着た一人の男子生徒。


 その顔には見覚えがあった。


 クラスメイトの――佐倉 光翔こうしょう


「おい……嘘だろ……」


 隼人の声が震える。


「佐倉……お前、失踪してたって……!」


 だがその“彼”の目は、真っ黒に塗りつぶされていた。


 表情は虚ろで、口元だけが笑っている。


「“主”は……まだ眠っている。だから……僕たちが門を、守るんだ」


「……操られてる?」


 俺が低く呟く。だが、違和感はそれだけではなかった。


(いや……違う。これは――“自分の意思”で)


「煉、気をつけて。あの生徒は、影に取り込まれたんじゃない。“影の器”として、自ら同化を選んでる」


 ユリアの警告と同時に、佐倉の手から黒い炎が噴き出した。


「近づくな――!」


 俺が前に出て、木刀で炎を斬る。だが衝撃は重く、教室のドアが吹き飛んだ。


「やるしかない!」


 俺とユリアが一斉に踏み込む。


 影の力をまとった佐倉の動きは人間離れしていた。


 壁を駆け、床を滑り、そして拳から黒い爪のような斬撃を繰り出す。


 俺が斬撃を受け流しながら叫ぶ。


「佐倉! お前、本当にそれでいいのか!? お前にも……守りたいものがあったはずだろ!」


「守るよ。影の側で、“新しい世界”を。だってこの世界は、僕を見なかったじゃないか……」


 その声に、一瞬、俺の足が止まった。


(……そうか。彼もまた、“選ばれなかった者”だったんだ)


「だったら俺が見る。今からでも、お前のことを」


 俺の声に、佐倉の目がかすかに揺れた。


 その瞬間、ユリアが横から踏み込み、影のコア――胸元の黒い紋様を突く。


「ごめんなさい。ここで止めるわ」


 黒い霧が爆ぜ、佐倉はその場に崩れ落ちた。


 静寂が戻る。


「……死んでない。意識だけ封じた」


 ユリアがそう言うのを聞いて、俺は小さく息を吐いた。


「戦いは、どこまでも“人”との戦いになるのかもしれないな」


 そして――門はなお、微かに“軋み”を続けていた。

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