第16話 二つ目の門、開かれし境界

 旧講義室――


 佐倉を沈黙させた直後、床に刻まれた紋章が震え出した。


「……まだ終わってない」


 俺が木刀を構えたまま後退する。


 ユリアがすかさず叫ぶ。


「この場所が“器”だったの! 佐倉は単なる媒体、本体は――」


 言葉を遮るように、黒い光が紋章の中心から立ち上がった。


 グゥゥゥゥン……


 空間そのものが震え、音もなく壁が歪む。


 まるで校舎の一角が異世界と“接続”されるかのように。


「――門が、開いた」


 玲央の声が、背後から聞こえた。


 俺たちが振り向くと、玲央が結界の補助陣を刻みながら現れる。


「ここは“次元の接点”。閉じるには、外と内、両側からの封印が必要だ」


「つまり……向こう側に入れってことか」


「そうだ。煉、行けるか?」


 俺は迷いなく頷いた。


「もちろんだ。これは俺の――前世から続く戦いだからな」


 澪と天音が、扉の外から駆け寄ってくる。


「待って、兄さん!」


「行くなら私たちも……!」


「ダメだ」


 俺の声ははっきりしていた。


「今の“向こう側”は、正気で立っていられる場所じゃない。お前たちは、ここで“この世界”を守ってくれ」


「……わかった。でも、絶対に戻ってきて」


 澪が俺の手を握る。


「私たちは兄さんを信じてる。だから、兄さんも、自分を信じて」


「兄さま、がんばって!」


 二人の言葉に背を押され、俺は一歩踏み出した。


 ユリアが隣に並ぶ。


「行くわよ、“勇者”」


 黒い門の中心に、光と影が絡み合う“境界”が浮かび上がる。


 俺、レン・ヴァルト=フェルディアは息を吐いて――


「――開け、“向こう側”」


 その言葉と共に、俺とユリアの身体は光に包まれ、門の内側へと消えていった。


 残された学園には、静かな風と、音もない緊張が流れる。


 玲央はその場に座り込み、冷たい床を見つめながら呟いた。


「この戦いに……終わりなど、あるのだろうか」


 門の向こう。


 そこには、俺の“記憶”と“罪”が眠っていた。

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