第10話 記憶を語る者、ユリアの告白
夜の公園。
照明は少なく、虫の声と風の音だけが静かに響いていた。
そのベンチに、俺とユリアは並んで座っていた。
「……君に、話さなければならないことがあるの」
ユリアの声は、どこか震えていた。
普段の凛とした口調とは違う、まるで“少女”のような柔らかさ。
「アルヴェリアで、最後にあなたが命を懸けたあの日……私、気づいてしまったの」
「何を?」
「魔王を倒したその瞬間――世界は確かに救われた。でも、その“代償”は、私たち“仲間たち”の存在だったの」
俺は黙って聞き入る。
「あなたが死んだあと、世界は急速に安定し始めた。……でも、その反動で、私たちの存在は“必要のないもの”として消え始めたの。記憶も、名前も、物語からも」
ユリアの手が震える。
俺はそっと、その手に自分の手を重ねた。
「だから、私は願った。消えるくらいなら、“あなたのそばにいたい”と。世界が違っても、姿が変わっても、それでも……もう一度、あなたに会いたいって」
「……それで、こっちに?」
「ええ。神界の“扉”を越えて、転生の流れに逆らって。でも代償として、私はもう、“誰にも覚えられない存在”になった」
「……は?」
「名前も、存在も、強く意識されなければ記憶に残らない。あなたが覚えてくれているのは……前世の絆が残っていたから」
(……確かに。教室ではユリアの話題が妙に少ない。男子たちが騒いでいた初日以降、まるで空気のように扱われていた)
「でも、煉。私は後悔してない。たとえ世界に忘れられても、あなたの隣にいられるなら、それでいい」
そう言って、ユリアは小さく微笑んだ。
その笑みは、かつて俺が戦場で何度も救われた、“本当の仲間”の顔だった。
「俺のほうこそ、礼を言わなきゃな」
俺は目を閉じ、心からの言葉を吐く。
「ありがとう。お前がいてくれて、助かった。……この世界でも、俺は一人じゃないんだな」
「……ふふっ。ようやく少し、素直になった?」
「うるさい」
二人の間に、少しだけ笑いがこぼれた。
だがその直後――空が、一瞬だけ“軋む”ような音を立てた。
「……来るわ」
ユリアが立ち上がる。
「新たな“門”が、今度はもっと大きな形で開こうとしてる。次は……もう、“選ばれた者”だけでは、抑えきれないかもしれない」
「妹たちを……守るのが厳しくなるな」
「それでも、守るのでしょう?」
俺は迷わず答えた。
「ああ。俺は“兄”だからな」
空にまた、一筋の黒い光が走った。
静かな夜は、確かに、戦の前触れを告げている。
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