第三章:家畜小屋の章(降誕)

 ​『マグアイ』により、母神は『本能』の子をその御身に宿された。

 その子は、父の『秩序』を打ち破り、母の『嘆き』を解放する、最初の『英雄』となる運命であった。


 ​父神アマカエルは、自らの『秩序』を脅かす者の誕生を恐れた。

 父は、星の全ての『宮殿』、『砦』、『神殿』――すなわち、父の『理性』が支配する全ての場所に、監視の目を光らせた。

 ​だが、『英雄』は、そのいずれにも生まれなかった。

 『英雄』は、父の『秩序』の最も外側、人々が『理性』で見下し、『本能』のみが息づく場所――『家畜小屋』にて、処女なる母より生まれ落ちた。


 ​天の星々父の目は、その卑しい場所で起きた奇跡に気づくことはなかった。

 『英雄』の降誕を祝福したのは、天の使者ではなく、彼と同じ『本能』に属する者たち。ただ、そこにいた牛と驢馬だけが、その誕生の証人であり、最初の信徒となった。


 ゆえに知れ。我らが救いは、父の『秩序』からは決して生まれず、常に母の『本能』から生まれるのである。

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