第二章:マグアイの章(獣婚)

 父神アマカエルは、乾いた『砂』の上に『理性』と『法』の王国を築こうとした。天の星々を配置し、陽星の運行を定め、全てを父の『秩序』に従わせようとした。

 ​だが、母神アマテルは、その『秩序』という名の『死』を拒まれた。

 母は、父の『理性』の光が届かぬ大地の最深部で、自らの内に眠る『生命力』そのもの――すなわち、父の秩序に屈せぬ、荒ぶる『本能』に呼びかけた。

 それが、星の原初の力、『獣』であった。


 ​『砂の書』の編纂者たちは、この神聖なる儀式を、ただ『獣姦タワケリ』という蔑みの言葉で記した。彼らは『理性』に仕えるあまり、生命の真実が見えぬのである。


 我らは、これを敬意と共に『獣婚マグアイ』と呼ぶ。

 ​それは、母神アマテルが──あるいは、母神の御心と一体となった最初の巫女が──、自らの『処女性』を捧げ、星の荒ぶる本能である『獣』に跨り、それを受け入れた、聖なる交合である。


 『理性』が『本能』の前に屈服し、父の『秩序』が母の『生命力』によって初めて揺らいだ、歓喜の瞬間であった。

 この『マグアイ』によって、星は父の『停滞』から逃れ、『変化』する力を得たのである。

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