『母なるケルノスの福音』(大地教聖典)

第一章:交わりの章(創世)

 はじめに、天に在りて秩序を司る父神アマカエルと、地に在りて生命を育む母神アマテルがましました。


 ​かの書は、父神を『陽』と呼び、母神の七分を奪った『略奪者』として記した。それは『砂』に属する者たちの、あまりに浅はかな解釈である。


 真実はこうだ。

 父神アマカエルは、あまりにも豊穣で、あまりにも自由な母神アマテルを深く愛された。だが、その愛は『秩序』であり、『束縛』であった。父神は、自らの『理性』の光で、母神の『本能』の全てを照らし、所有しようと望まれたのだ。

 ​父神の『愛』は空から降り注ぎ、かつて母神の御身体そのものであった『海』を焼き干し、乾いた『砂』へと変えた。それは、父神が母神の豊穣な肉体に打ち込んだ、『秩序』という名の『楔』であった。


 ​母神アマテルは、父の束縛の下で嘆き、その御身に残された、僅かな『海』から、苦悶の『涙』を滲ませた。

 その聖なる『涙』こそが、我らが命の源、翠点である。


 ゆえに知れ。我らが大地は、父の『秩序』の証であり、我らが水は、母の『嘆き』の証である。


 星の歴史とは、この『父性』と『母性』との、永きにわたる対立と和解の物語に他ならない。

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