クラスで見向きもされない彼女と底辺な彼

一ノ瀬麗奈

第1話「底辺な彼」

俺は小原おはら高校に通う七瀬ななせ流星りゅうせい

この学園で下から数えた方が早い存在だ。


~~~



「「「キャァァァァァ」」」



 黄色い歓声が彼女達を取り囲んでいた。


その中で一際注目されているのが、

彼女…『柳澤やなぎざわはるか』この学園一の美少女だ。


しかも、同じ学年の同じクラスである。



「あそこはいつも通りだな…」


「学園一のマドンナ様だからなw」



彼は『宮下みやした和樹かずき

外見はチャラチャラしているが、

その実、小心者だがムードメーカーも兼ね備えている男である。



「おいっ!?流星!急がないと次の授業間に合わねえぞ‼」


「次って…体育か⁉悪い…体調が悪くなったから保健室に行くわ!」


「またかよ!!保健室に付き添ってやるよ!」


「いらねえし和樹はサボりたいだけだろw」


「まーサボりたい気持ちもある!」


「気持ちはわかるが和樹は先に行って、先生に俺が遅れること伝えてくれよ?」


「あぁ、いいぞ!」



~~~



保健室にて… 


宮脇みやわき先生~頭が痛いので頭痛薬ください!」


「はぁ…七瀬くん…またですか…

今回だけ特別に渡しますが、

自分で購入して持ち歩きなさい‼」


「はい…ありがとうございます…

 気を付けます…失礼します…」



ーーー


「彼の素行は悪くないし、体調も問題ないはずなのに継続的に保健室に来るなんて……

原因は…人付き合いかしら!?」


ーーー



「月に何度も保健室に行くのは怪しまれるよな…次からは頭痛薬を持ち歩くか…

さて、別棟べつむね2階の空き教室に向かわないとな…」


授業時間中だが、七瀬は足を進め、

目的地まで立ち止まることがなかった。


向かったのはとある空き教室

彼は空き教室の扉を開いた。


そこに居たのは…

学園一の美少女と呼ばれている柳澤遥だった…



「待たせたな。ほい…」



先程、宮脇先生に貰った頭痛薬を、

柳澤に手渡した。



「ありがとう…」


「いいって…じゃあな!」


「うん…」



~~~



七瀬は急いでグラウンドに、

柳澤は軽い足取りで体育館に向かった…



「ハァハァ…七瀬流星です!遅れてすみません……」


「七瀬…前も言ったがギリギリだぞ!!

10分以内に授業に参加すれば欠席扱いではないが、やむを得ない場合を除き、遅刻扱いだぞ?それに遅刻3回で1回の欠席扱いだからな!後で遅れた理由を教えろよ‼」


「はい!すみません!!」



ーーー



「七瀬…何故遅れた?」


「はい!三木みき先生…体調が優れなくて、保健室で宮脇先生に視て貰ってました。」


「…宮脇先生に?それで?」


「貧血気味だったみたいで、

頭痛薬を貰い服用しました。」


「これからは頭痛薬を常備しておけよ。

今回は特別に遅刻を付けないでおくよ。」


「はい!ありがとうございます!」


ーーー


「ふぅ…やっぱりって大変だな…」


物思いにふけっていると、

チャイムが鳴り響いた。


・・・


放課後、俺と和樹は駅へ向かう人の波から、

外れて遠回りする。


「なぁ、ちょっと寄ってくか?」

流星の顔色を窺いながら出た言葉だ…


「…またカラオケかよ。いつもそれだな。」


そう言うと和樹はニヤリと笑った。


「いーじゃねえか。歌えるし、家では話せない事が話せるだろ。秘密の作戦会議ってことで!!」


目的は歌じゃない。ただ、誰にも邪魔されずにしゃべれる空間が欲しいだけだ。


カラオケボックスという名の“密談空間”。

俺達は、そこで学校では言えないようなアレコレをこそこそ話すのが日課になっていた。


「で、今日の話題は?」


「流星は気になる人いるか?」


「いない。そういう和樹は?」


「俺は学年一マドンナの柳澤遥だな!」


「彼女は男性嫌いで有名なはずだが、

 和樹も告白するのか?」


「告白できるわけねえだろ!!

今では学園の男女から羨望の眼差しで、

彼女は見られているんだぞ!!

ぽっと出の俺より相応しい人がいるだろ!

尚且つ、男性嫌いが緩和しないことには、

付き合うなんて夢のまた夢だぞ!!」


「男性嫌いを一緒に克服するのは駄目なのか?」


「俺は過程も楽しむが、俺のせいで彼女が傷付くのは嫌なんだよ!流星も知っているだろうが、柳澤さんは入学早々目立っていたから、

同学年や高学年の男子から告白が続いているだろ。アレを見ていた傍観者の俺は片思いで充分…」


「いいや!和樹、行動に移せ!!

 好きと気持ちを伝えるんだ!!」


「おい、いきなりどうしたんだよ…」


「傍観者は俺も共犯だ。

明日、彼女に気持ちを伝えろよ!」


「あぁ…(流星が頑固なのは初めてだな…)」


「気晴らしに歌おうぜ‼」


「歌って、気持ちを固めてやるよ‼」



ーーー



「「乙‼また明日‼」」



2人は帰路に着いた。


ーーー


「流星が熱くなるとは思わなかったな…

俺に隠れて女が出来たのか!?…ありえないな!」


ーー


「はぁ・・・和樹の恋を邪魔しちゃ悪いからな…柳澤との関係も改めないとな…

だが、今日も俺は彼女に見向きもされなかったな…」


実は、友人や和樹にも秘密にしているが、

気になる人がいるのだ。


それは、クラスで誰にも興味を持たれていない彼女…『伊坂栞いさかしおり』のことを密かに思っている。


伊坂栞とは柳澤の友人である。

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