第19話「フィルムに宿るもの」

 MV完成の知らせは、唐突にやってきた。

 監督から届いたメールには「今日、試写室に集合」とだけ書かれている。

 放課後、私とアビ、美月、そして猫さんまでが揃って、小さな試写室に入った。





 照明が落ち、スクリーンに映像が流れ始める。

 イントロのベース音が、アビの指先から放たれる瞬間がスローモーションで映し出され、思わず息をのむ。

 自分の声が、思ったよりも澄んでいて……知らない誰かの歌みたいだった。





 だが、中盤。

 カメラが私の顔を大きく捉えたとき――そこには、確かに猫さんを見てしまっている“あの瞬間”が残っていた。

 私はスクリーンから目を逸らす。

 隣でアビが短く息を吐く音が聞こえた。





 ラストシーン、全員で演奏する姿が映り、照明がパッと明るくなった。

「……悪くないな」猫さんはそう言って、タバコを指先でくるくる回す。

「でも、お前……歌ってるとき、完全に“女”の顔だったぞ」


「はぁ!?」思わず大声を出してしまい、スタッフが笑いをこらえる。





 美月は薄く笑って、私にだけ聞こえる声で囁く。

「好きな人、バレバレだよ」

 ――心臓が一拍、遅れて動いた気がした。


 映像はただの映像じゃなかった。

 そこには、私の知らない私が、しっかりと焼き付けられていた。





つづく


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