第20話「再生回数と心拍数」

MVは公開からわずか半日で、再生回数が10万を超えていた。

 コメント欄には「歌声が刺さる」「表情がヤバい」「ベーシストの人イケメンすぎ」といった感想が並び、私のスマホは通知で爆発寸前。


「お前さ……“女麺”ってタグ、勝手につけられてんぞ」

 アビがニヤつきながらスマホを見せてくる。

「なにそれ!? インスタ映え系バンド女みたいじゃん!!」

「まぁ、映えてるからしゃーない」





 しかし、コメントの中には、美月の名前を出して匂わせるようなものも混ざっていた。

《あのギタリストとボーカル、なんかあったっぽくね?》

《目線が怪しい》


 心臓がキュッと縮まる。

 あの日、美月にかけられた半分冗談みたいな言葉が、急にリアルに響いてきた。





 その夜、猫さんからメッセージが来る。

《お前の歌、前より生きてた。……でも浮つくな》


 たったそれだけの短文なのに、画面の光がやけに眩しかった。

 スマホを握る手が、少し震えている。





 翌日、学校でアビと顔を合わせる。

「おはよ」

「……おう」

 まだ微妙な距離は残っているが、昨日よりは少しだけ近い。

 それでも、心のどこかでざわつきは収まらない。


 再生回数が伸びるたびに、嬉しさと不安が同じ速度で膨らんでいく。





 ――このMVが、私たちの何かを変えてしまう予感がした。






つづく

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