第51話 リュウ vs ルナ!本気のスローライフ頭脳戦、開幕!

「リュウ、うちとやろうばい! 次の対戦は、あんたたい!」

 

 ルナは勝利の余韻に浸る暇もなく、鼻息荒くリュウを指差した。

 その目は、獲物を定めた狩人のように鋭く輝いている。

 

「えっ、ちょ、今の流れ的に俺がやる感じ!?」

「そりゃそうたい! さっきから実況席で好き勝手言いよったやろ?」

「実況してただけなのにぃぃ……!」

「リュウ、ここで逃げたら一生“リバーシ童貞”の烙印を押されるぞ」

「マオ、さっきまでお前がそれだったろうがぁぁ!」

 

 こうしてセッティングされた、筆の家リバーシトーナメント(非公式)第3戦目。

 リュウ vs ルナ

 黒がリュウ、白がルナ。

 盤面の中央に、四つの初期石が並び、静かに勝負の火蓋が切られた。

 

「さぁて、いっちょ真剣にやりますか!」

 

 リュウの目からは、普段の“スローライフ逃亡者”モードが消えていた。

 代わりに浮かぶのは、少年時代に無双したリバーシ王の顔、そう、“本気モード”である。

 

「うちも負けんよ? さっきのマオと違って、手加減はいらんばい!」

「いや、それマオに失礼すぎるから!」

 

 序盤、互いに牽制し合うような展開。

 リュウは冷静な石運びで盤面を整えつつ、ルナの暴発を待つ。

 

「リュウって、こうやってちょこちょこ置くの、なんかズルか〜?」

「ズルじゃない! セオリーなの! 本当のリバーシは“取らないこと”も戦術なんだってば!」

「そんなん退屈ばい。うちは取りたい時に取るっちゃん!」

 

 ガッ!

 ルナが勢いよく白石を置き、数枚の黒が裏返る。その手には、迷いが一切ない。

 

「それがね、次のターンに全部返されるんだよね〜……っと!」

 

 リュウが返したのは、ルナの大群を切り裂く一閃。

 まるで筆で描いたような、美しいライン取りだった。

 

「なっ……いつの間に!?」

「ふっふっふ。これが“積み上げてきた地味戦略”の威力……!」

 

 中盤。

 盤面の支配率はほぼ五分、だが、リュウは油断していなかった。ルナの直感力が、マオ戦でどれほど脅威的だったかを彼は知っている。

(ルナは直感型……だが、さっきのマオ戦を見るに、侮れない)

 ルナの表情がふと真剣になる。その瞳が、盤面ではなくリュウの顔を見つめる。

 

「……リュウ、次、角、取るとやろ?」

「え?」

「その前に……ここ!」

 

 ピシッ!

 その一手は、リュウが狙っていた“角”を完璧に封じる布石だった。リュウの顔から、血の気が引いていく。

 

「うそぉぉぉ!? 完全に読まれてるーっ!!」

「うち、戦ってるとわかるっちゃん。リュウの考えてること、なんか顔に出とるっちゃね!」

「マオと同じこと言ってるぅぅ!」

 

 そして終盤。

 盤面の石は交互にひっくり返り、まさに一進一退の攻防。

 ルナは攻めに攻め、リュウは守りと罠で応戦。双方の集中力は極限に達していた。

 最終手を残し、残りのマスはひとつ。

 

「最後は……ここばい」

 

 ルナがゆっくりと置いたその白石が、盤面全体を波のように裏返した。

 リュウの黒石が、次々と白に染まっていく。

 

「マジか……これ、逆転されてる……!?」

 

 結果。

 白33、黒31。

 

「やった……やったったばい!!」

「うおおおおぉ、超ギリギリじゃん! ルナ、すげぇぇぇ!」

 

 ルナはにっこりと笑って小さなガッツポーズ。

 リュウは呆然としつつも、潔く拍手を送る。

 

「これは完敗だ……! まさか、こんな接戦になるとは……」

「ふふん、リバーシって楽しかばい! あんた、またいつでも挑んできんしゃい!」

 

 その笑顔は、いつものちょっとツンツンなルナとは違って、ほんの少しだけ“女の子”っぽく見えた。

 こうして、筆の家にまたひとつ、ささやかな娯楽が根付いた。

 リバーシという名の、石と石の戦いが、仲間たちの心を、ちょっとだけ繋げていく。

 

「というわけで、筆の家リバーシ大会、開幕〜!」

 

 ノリで立ち上がったリュウの宣言とともに、ログハウスのテラスに特設リバーシ卓がズラリと並ぶ。

 ちゃぶ台サイズの木製テーブル、手作りチップ、ルナが即興で描いた大会看板、完全にノリと勢いで始まった“筆の家娯楽祭”。

 

「……仕方ないですね。参加してあげますよ、リュウさん」

 

 優雅に椅子に座るは、白銀の髪を結んだ知性派エルフ、ティア・リュミエール。

 

「頭脳戦。いいじゃない。こういう静かな競技、実は得意なんです」

「私、賭けるなら味噌と静寂ね」

「静寂って賭けにできるの!?」

 

 続いて登場したのは。

 

「リュウくん〜、なんか楽しそうなことやってるじゃな〜い!幼女との距離をリバーシで詰めるチャンス到来ってやつじゃん?」

 

 マントをヒラリと翻し、謎のポーズで登場するのは筆の家の問題児・エルド・マクシミリアン。

 

「ルールは完璧! でも負けたら服が一枚ずつ消えるっていう“リバーシストリップ”ルールは採用していい?」

「どこの世界線の大会だよぉぉ!!」

 

 ティアが無言で白石をエルドの額に当てていた。その表情には、明らかな苛立ちが浮かんでいる。

 

「……今すぐ盤の上だけに集中しなさい。魔導院追放されてまた変態扱いされたいの?」

「はい、すみません!」

 

 そして、誰もが予想していなかった存在が、ふわりと空から舞い降りた。その姿は、周囲の空気を一変させる。

 

「……リバーシとやら、試してみたい。神域にはない文化……興味深い」

 

 天使の輪を頭に浮かべ、巨大な羽をたたんだのは、元・封印されし大天使、セラフィエル。

 

「え、参加するの!? というか降臨してくるのそこ!?」

「わたしも神の名において、角を取りたい」

「角の取り合いって神々しい台詞じゃないからね!?」

 

 こうして開幕した筆の家リバーシ大会・異種族エキシビションマッチ!

 ティアの盤面構成は緻密で正確。無駄が一切ない“静の戦術”。その一打一打に、計算された美学が見て取れる。

 エルドは開始早々盤面にチップを三つ落として「トライアングルフラッシュ!」とか叫ぶが普通に反則。

 セラフィエルはなぜか片手で石を投げるスタイル。「これが天界流リバーシか……!」と誰かが言ってたが、その強引な打ち方はある意味で神々しい。

 

「……おい、誰かまともな対戦して……!」

 

 リュウは額を押さえながら、ハンモックで実況解説に戻った。彼にとって、このカオスな状況こそが「日常」になりつつある。

 

「いやもう、これだけで日常に潤いだな……スローライフの意味違ってきてるけど……」

 

 最終戦は、ティア vs セラフィエル。

 人智と神意の一戦は、互角のまま日没とともに終了。

 勝敗はつかなかったものの、盤上には美しい白黒のバランスが並んでいた。

 

「……お見事でした、セラフィエルさん」

「そなたもな、ティア。わたしは次の大会に備えて、ルールブックを読み返しておこう」

「いやルール覚えてなかったんかい……!」

 

 こうして筆の家の新しい文化、“異世界リバーシ”は、静かに……いや、わりとドタバタと広まっていったのだった。

 リュウはふと空を見上げ、つぶやく。

 

「まぁ……これはこれで、スローライフ……なのかな?」

 

 その背後では、

 

「リュウくーん! 次の新しいゲームやらない〜?」と叫ぶエルドの声が響いていた。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!」

 筆の家の平和は、今日も全力で転がり続ける。






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