波間より出て繋ぐ妖。潮は遂に満ちた。

一人の老いた漁師が、浜からいつも海を
見ていた。日なが一日飽きもせずに魚籠を
手に、釣り糸のない竿を垂らして

 時に、誰かに。

まるで幼い孫にでも語りかける様に。
優しい口調で話をしていた。

気狂いの老爺であろうと、浜の者たちは
噂した。誰もいない浜で、日なが一日海を
見つめながら、姿の見えぬ 誰か に
時折、優しく語りかける。

 ある時、天邪鬼で知られる小僧が
敢えて老爺に声をかけるが…。


何かの 到来 を待ち望む老人と、
天邪鬼と呼ばれる小僧。彼等の一見、噛み
合わない遣り取りは、遠く海原に
数十里もある、まさに あやかし を
認めた時、遂に崩壊する。

 兄に射られた右腕は。
       記憶の底に沈み込むが。

崩壊の後に、漸くまみえたものは。


    輪廻転生とは因果なものである。


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