波間より出て繋ぐ妖。潮は遂に満ちた。
- ★★★ Excellent!!!
一人の老いた漁師が、浜からいつも海を
見ていた。日なが一日飽きもせずに魚籠を
手に、釣り糸のない竿を垂らして
時に、誰かに。
まるで幼い孫にでも語りかける様に。
優しい口調で話をしていた。
気狂いの老爺であろうと、浜の者たちは
噂した。誰もいない浜で、日なが一日海を
見つめながら、姿の見えぬ 誰か に
時折、優しく語りかける。
ある時、天邪鬼で知られる小僧が
敢えて老爺に声をかけるが…。
何かの 到来 を待ち望む老人と、
天邪鬼と呼ばれる小僧。彼等の一見、噛み
合わない遣り取りは、遠く海原に
数十里もある、まさに あやかし を
認めた時、遂に崩壊する。
兄に射られた右腕は。
記憶の底に沈み込むが。
崩壊の後に、漸くまみえたものは。
輪廻転生とは因果なものである。