第26話 Day.26 悪夢

 自分でも、悪手だとは思った。

 何もアイツらの好む暗い道へと、自ら飛び込むことはなかったんじゃないか。

 けどアイツらが、常よりもかなり大量に集まってきているのは、確かだ。

 俺を狙ってきているとはいえ、他の人を襲わないという保証はない。数に任せて、いわゆる霊感のある人間を襲わないとも限らないのだ。

 だとしたら、人の多い繁華街を行くよりは、一人で逃げた方がいい。

 暗闇が濃くなり、どろりと空気が纏わりついてくる。ねっとりとした気配が、どんどん絡みついてくる。

 足が重い。まるで泥の中を進んでいるようだ。

 悪夢の中で、必死に逃げているのに、時が止まっているように進めない。まさにそんな感じだ。

 アイツらで、満ちていく。

 いやだいやだ、くるなくるな!

 俺に近づくな、触るな。

「臨兵闘者皆陣烈在前!」

 手早く印を組み、九字を切る!

 青い格子が光となって広がり、黒い気配を消していく。

 だが少なくなったのは、一瞬のこと。

 すぐにアイツらは沸いてきて、俺の手足を絡めとろうとする。

 逃げきれない。

 そう思った、その時。

「なぁにをやっとるんだ!ぼん!」

 大きな声と共に、突風が吹き抜けた。

 風に吹き飛ばされるように、アイツらが散っていく。

「飛び散れ!」

 もう一度強風が駆け抜ける。

 そして次の瞬間、俺の身体は宙へと舞い上がった!

「ええっ?!」

「危なっかしいのぉ。坊、こんな所にいてはいかんのじゃないか?」

 聞き覚えのある低い声。

 はっと顔をあげると、俺はいつぞやの謎の男の腕の中にいた。

 そう。巻物を投げてきた鼻の高い男だ。

 その男につまり、お姫様抱っこをされている?!

 ていうか、何が起こった?

 俺は辺りを確認して、絶句した。

 飛んでる?

 繁華街の上空を、俺達は飛んでいた。

 眼下に煌めく京の街が広がっている。

 なんで?と見上げると、男の顔越しに、力強く羽ばたく翼が見えた。

 ……え?翼??

 呆然とする俺の顔を見て、男はニッと笑った。

わしが通りかかって、良かったのぉ」

「え、えっと、あの」

 理解が追いつかない。なんと言えばいいのか。

「しかし、話には聞いていたが、本当に集めるんじゃな。しつこい連中が追って来ている」

「え」

「仕方がない。儂がどうにかするから、坊は迎えのところに行け」

「む、迎え?!」

 何を言ってるんだ?迎えって、何?!

 だが男は、説明する気も必要もないというように叫んだ。

「ほれ、受けとれ!」

「ええーっ?!」

 声と同時に、勢いよく放り出される。

 いやちょっと待ってよ?!

 ここ、空なんですけど?!?!

 やっぱり悪夢を見てるのか?!

「うわぁぁぁぁぁ?!」

 夜空に俺の絶叫が響いた。

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