第25話 Day.25 じりじり
ヤバい気配は感じていた。
そもそも劇場という場所は、アイツらが集まりやすいのだ。
奈落だったり、特殊な装置などがあるせいなのか、劇場の怪異と言うのはよくある話だ。
ましてや、ここは京都。
平安の御世から、都に張り巡らされた結界の数々が、現代でも息づいている。
幾重にもかけられた結界のせいで、場所によっては、アイツらの吹き溜まりが出来てしまっていると教えてくれたのは、はくどーさんだったか。
俺も実際見たことがあるし、そういう場所には近寄らないようにしている。
今回の手伝いの話を受けた時、真っ先に劇場のことを調べた。
この劇場は、元々は小学校があった場所で、再開発の一環で、建てられたものだった。なので、最近出来たものだしと、安心したんだけど。
考えてみれば、学校という場所も、怪談の定番だ。更に言うなら、学校以前に何があったのかにもよるよな……。
と気がついたのは、モギリの最中のことだった。
その時には、じりじりとにじり寄って来るような、妙な気配を感じていた。
とは言え、こっちも初めての手伝いに、あたふたしていたので、いつの間にか頭から抜けていた。
上演中は、音響スペースに座らせてもらって、普通に観客として楽しんでしまったし。
二度目ともなると、初回では気がつかなかった仕掛けに気づいたりして、なるほど!と叫びそうになったほどだ。
だが、舞台が終わり、片付けを手伝う内に、再び気配を感じとる。
最初は遠くから様子を伺っていたのに、じりっ、じりっと近づいてきていて。
これはヤバイな。早く帰らないと。
そう思っていたのに。
とにかく一日楽しかった俺は、打ち上げのお誘いに「行きます!」と答えてしまった。
まるで文化祭準備のようなお祭り騒ぎに、浮かれていたんだと思う。
予約をしていた、劇団行きつけの居酒屋、つまり東さんのバイト先に雪崩れ込むと、楽しい宴会の始まりだ。
勿論高校生の俺は、ジュースを飲んでいたが、ハイテンションな一同の会話に、ずっとゲラゲラ笑っていた。
真面目な演劇の話だったり、最近話題のドラマの話に、大学の講義の話、学祭の話など、話題はコロコロと変わっていく。
狭い世界の中にいる俺にとって、どの話も興味深かった。
なので、うっかり時間を忘れてしまった。
一次会が終わり、店を出る頃には、すっかり夜。
店の外に出た瞬間、ゾワリとアイツらの気配を感じで、軽く震えが走った。
じりじりと迫ってくる闇の気配。
これはマズい。このままでは、迷惑がかかってしまう。
「俺は、帰ります。今日はお世話になりました」
「帰っちゃうの?二次会も行こうよ!」
「莫迦たれ。高校生を誘うな」
香月先輩が、東さんの頭を軽くはたく。
「礼を言うのはこちらだ、少年。今日は助かった。ありがとう。良ければまた手伝って欲しい」
「学祭の時もよろしくー!」
陽気に叫ぶ東さんの頭は、今度は本格的にはたかれ、それはそれは良い音がした。
皆に見送られ、少しばかり寂しい気持ちと共に、俺は駅へと歩き出す。
一人になると、いっそう気配を感じる。
じりじりと近づいてくる気配は増える一方。
夜とは言え、繁華街だから人通りは多い。
勘の良い人は、何かを感じたように辺りを見回したり、びくりと肩を震わせたりしている。
早く逃げなくては。
だが、駅への最短ルートを塞ぐように、アイツらが集まりつつあるのが見えた。
一瞬迷ったが、俺は脇道へと逸れる。
誰かを巻き込むくらいなら、俺一人が犠牲になる方がマシだ。
怖いけど、それだけは何としても避けたい。
誰も傷つけたくない。あんな思いは、二度と御免だ。
出きることは、少ないけど。
それでも最善を尽くしたい。
人気のない暗い道へと、俺は駆け出した。
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