第3話

  だが、違和感はすぐに確信へと変わった。

 リザードマンにしては――翼が、あまりに大きすぎる。


  「違う……飛竜でもない……あれは、もっと――」


  誰かがつぶやいた。


 そのとき、空が鳴った。

 風を裂くような咆哮。低く、重く、腹の底に響く怒号。

 上空の黒点が、まるで雨粒のように加速度を上げながら降下してくる。


  「くるぞッ!」


 仲間が叫ぶより早く、空から一体の“黒い影”が岩場に叩きつけられた。


 ――堕竜兵だりゅうへい


 黒い鱗に覆われた半竜の魔物。人間の上半身に竜の翼と尾を持ち、手には焼けた鉄の鉾を構えている。


  「堕竜兵だと……!? 帝国の北域には現れないはずじゃ――」


 誰かが絶叫する。だが、すでに十体ほどの堕竜兵が空から降下していた。


  「包囲されてる!」

  「後衛、引け! 囲まれるぞッ!」


 岩場が鳴動し、魔物の唸りが空を満たす。混乱の中、マイはすでに矢を番えていた。


 だが――その瞳の奥には、戦場ではない、別の映像がちらついていた。


 (……この光景、見たことがあるような……。)


 焔の空。崩れ落ちる大地。空に咲く黒い炎。


 記憶の底から浮かび上がる、ひとつの言葉。


 “竜戦りゅうせん”。

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