第2話
「マイ、左の崖下! オークが三体、駆け上がってくる!」
仲間の叫びに即座に反応し、マイは矢を三本同時に抜いた。一本、二本、三本――それぞれを正確に構え、弓を素早く引き絞る。
「三連射、いけるか……」
風向きを確認し、射線をずらす。オークが重たい足音とともに岩肌を駆け上がってくる。腕にした棍棒を振り上げ、吠えるように咆哮する。
次の瞬間、矢が連続して放たれた。
一体目のオークが眉間に矢を受けて倒れ、二体目が喉を貫かれて転げ落ち、三体目は肩を射抜かれよろめいた隙に仲間の斧がその胸を割った。
「……仕留めた」
矢をつがえ直しながら、マイは静かに呟いた。
「すげえな……あの距離で、オークを一瞬で三体」
「さすがだね」
賞賛が飛ぶ中、マイの表情は変わらなかった。目は冷たく、次の戦闘を見据えていた。
(でも……この胸騒ぎは、何だ)
耳の奥に残る、聞き慣れない咆哮。
視界の端に、一瞬だけよぎった――黒い翼の影。
「ッ……!」
額に手を当て、ぐらつく意識を堪える。マイの動きに気づいた仲間が駆け寄ろうとするが、彼女は片手を上げて静かに制した。
「大丈夫。ただの立ち眩み。……任務に集中して」
そのときだった。
空の彼方に、小さな黒点がたくさん浮かんでいるのが見えた。最初は鳥かと思われたそれが、風を裂くような重低音とともに、じわりと大きく迫ってくる。
「……あれ、リザードマンか?」
誰かがそう呟いた瞬間、マイの瞳がわずかに揺れた。
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