第65話 私を狂わせた責任をとれ ※

 正直、エリナの体力がここまで続くとは思わなかった。

 さすがは冒険者――その強さは戦場だけでなく、こうした時にも現れるのだと知る。


 夜が明ける頃には、さすがの俺たちも動けず、ただ互いの鼓動を感じながら静かに息を整えていた。

 朝の光がカーテン越しに差し込み、白いシーツの上で淡く揺れる。


 その光の中で眠るエリナの顔があまりにも穏やかで、俺は思わずそっと唇を重ねた。

 瞬間、彼女のまつげが揺れ、ゆっくりと目を開く。

 そして――小さく微笑みながら、同じように唇を返してくれた。


 男には朝の自然現象――朝勃ちがある。

 それを見たエリナは、「もう一回しますか?」と声をかけてくれたので、遠慮なく俺はエリナと交わった。



 昼を少し過ぎたころ、俺たちはようやくホテルを後にした。

 外に出ると、まぶしい光と街の喧騒が現実に引き戻してくれる。

 大通りの角で別れ際、エリナは名残惜しそうに微笑んだ。



 ◇◇◇



 それからというもの、俺はこの『剣礼祭』の一週間で、いくつもの夜を重ねることになった。


 長く我慢していたイリス。

 メディナとも、はじめて二人きりでゆっくりと過ごした。


 そして――ドロテイア。

 彼女にかかっていた『淫染呪』の存在をすっかり忘れていた。

 俺の命令以外では他者を襲えないようにしていたので、呼び出した時の彼女は限界を超えていた。


 額には玉のような汗、頬は紅潮し、口からはよだれ。意識は半ば朦朧としていた。

 まず俺は彼女の『淫染呪』を<完全解呪>で取り除き、その後、精気がほしいほしいと懇願するので、ドロテイアに俺の精液をくれてやった。


 聞けば、ドロテイアの言う精気とは単なる精液ではないらしい。生命の源のようなものだとか。

 実は<吸精>というスキルを持っているそうで、それを使うと対象の持つ精気を徐々に吸えるらしい。

 そして、性行為をしている時と後によく吸えるそうで、それ故に地下施設で効率的に精気を摂取できていたそうだ。


 ただし――摂りすぎれば相手の命を奪うほど。

 戦闘中に使えるようなものではないそうだ。


そして、なんとなく理解していたが、ドロテイアは『淫魔』という魔物の突然変異で生まれた魔族らしい。数は多くないが、魔族にも種族があるようだ。



 ◇◇◇



 迎えた『剣礼祭』最終日。


 四日目以降の祭は、三日目以前とはまるで違う顔を見せていた。

 同じ露店でも新しい料理が並び、路上では舞台や大道芸が次々と披露される。

 街中が生き物のように変化し、賑わいと熱気が溢れていた。


 そんな喧騒の中、俺は一人の女声と待ち合わせをしていた。

 指定された場所は――なぜか大聖堂の前。


 そこで立っていると、約束の人物が人混みの向こうから姿を現した。

 頬を真っ赤に染め、ちらちらと周囲を気にしながらこちらへ歩いてくる。


「よっ、セイラ」

「シ、シュシュシュ、シュウ……っ」


 声が震えていて、まともに言葉が出ない。

 彼女がどれほど緊張しているか、一目でわかった。


「セイラ……今日の服、すごく似合ってるぞ」


 思わず見惚れてしまうほどだった。

 白のブラウスに、深い青のロングスカート。

 耳元では小さなピアスがきらりと光り、上品さと清楚さを兼ね備えたコーディネート。

 長い薄青の髪は、普段とは違い高めのポニーテールにまとめられていた。


 もともとセイラは整った顔立ちで、凛とした美しさを持つ女性だ。

 けれど、今日の彼女はそれ以上に眩しかった。


「そ、その……お前も……けっこう、似合ってると……思うぞ……」

「ああ、ありがとう」


 俺が着ているのは、エリナとのデートで買った服だ。

 なんとなく、セイラと会うならきちんとした格好でないと失礼な気がした。


「じゃ、じゃあ……行くぞっ」

「えっと……大聖堂に?」

「あ、あぁ……っ」


 耳まで真っ赤にしたセイラは、恥ずかしそうに視線を逸らしながらも先を歩く。

 どうやら目的地は決まっているようだ。


 中に入ると、彼女は迷いなく階段を上っていく。

 一般人が立ち入れないような区画を抜け、さらに上へ。


 やがて辿り着いた場所は――屋上だった。


 開かれた扉の向こうには、見事な光景が広がっていた。

 ここは北地区の大聖堂。そこから中央区、西区、東区、南区と、街全体を一望できた。

 まるで空の上にいるようだった。


「うわ……すげえな……」


 この街最大の建造物というだけあって、都市庁舎と並ぶ高さを誇る。

 眼下には無数の屋根と灯りが連なり、この街の壮大さを感じることができた。


「ど、どうだ……気に入ったか……?」

「ああ、すごいよセイラ。本当に綺麗だ」


 セイラの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「座れ――」


 屋上には、白いテーブルがひとつ。

 その上には花が飾られ、椅子が二つ向かい合っていた。

 セイラに促され、俺はそこへ腰を下ろす。


 やがて、扉の向こうから給仕が現れた。

 運ばれてきたのは――まさかのコース料理。


「なんだこれ……めちゃくちゃうまい! フランス料理か!?」

「フランス……? なんだそれは」


 皿に並ぶ料理は、どれも芸術品のようで、味も洗練されていた。

 セイラによると、大聖堂内には観光客向けのレストランが併設されており、今日はそこに特別に頼んで用意してもらったという。さすがは神殿騎士の部隊長――もしくは豚のおっさんのお陰もあるかもしれない。


「ま、まぁ……お前が喜んでるなら……いいか」


 照れ隠しのように呟くセイラ。

 けれどその頬は、柔らかく綻んでいた。



 ◇◇◇



「よっしゃー、じゃあ次は露店めぐりだー!」


 絶景と絶品ランチを組み合わせた、最高のデートコースを用意してくれたセイラ。

 その後の予定は特に決めていなかったらしく、俺はこの六日間で培った『剣礼祭』マスターの経験を活かして、セイラに思いっきり楽しんでもらうことにした。


 どうやら彼女は、これまで『剣礼祭』には何度も参加してきたものの、いつも神殿騎士としての任務ばかりで、純粋に遊んだことはほとんどなかったらしい。

 だからこそ、今日は仕事抜きで祭りを満喫してもらおうと思った。


 この祭りには、明らかに日本人転生者の影響を受けた遊びがいくつもある。

 射的に輪投げ、金魚すくい(正確には金魚っぽい魚)など、まるで夏祭りのような賑やかさだ。

 ただし、『剣礼祭』らしい独自の出し物もあった。


 たとえば――剣術遊び。


 高所から一斉に落ちる柔らかいボール三十個を、地面に落ちる前にいくつ斬れるかを競うというものだ。


「ふん――ッ!!」


 セイラは鋭く剣を振るい、次々とボールを真っ二つにしていく。

 その動きはさすが神殿騎士といったところで、周囲の客も息を呑んで見入っていた。

 ただ、自信満々だったセイラでも、十八個が最高記録だった。


「おりゃああああっ!!」


 俺も負けじと挑戦する。


「おおっ! すげぇ! この街じゃ見ねぇ腕だな! 他の街を拠点にしてる冒険者さんかい? ここ数年では最高記録だよ!」

「はは、まあ、そんなところだ」


 結果は二十三個。

 隣のセイラは、悔しさを隠しきれない顔で「ぐぬぬぬ……」と唸っていた。


 ここは花を持たせるべきだったか?

 と、そんな考えが頭をよぎったが、セイラはすぐに腕を組んでふんと鼻を鳴らす。


「私の横を歩くなら、そのくらい当たり前にしてもらわないと困るっ」


 どうやら本気で勝負した方が正解だったらしい。


 その後は、屋台のスイーツタイム。

 紅茶好きのセイラなら甘い物も好きだろうと、チョコバナナを勧めてみた。


「……バナナにチョコをかけているだけなのに、案外美味しいものだな……ん……チョコがこぼれて……んぅっ……あっ……舐めないと……んっ……」

「…………」


 理性が一瞬で吹き飛んだ。

 あれだけ凛々しい神殿騎士が、チョコバナナを食べているだけでどうしてこうも色っぽくなるのか。

 俺の下半身が、完全に祭りモードに突入してしまったのは言うまでもない。



 ◇◇◇


 夕方になり、空が橙色に染まる頃。

 一日中遊び尽くした俺たちは、そろそろ別れの空気を感じはじめていた。

 そんな時――セイラがふいに振り返り、「ついてこい」とだけ告げた。


 導かれるままにたどり着いたのは、彼女の家。

 中に入ると、すぐにセイラはガチャリと鍵を閉めた。


「セイラ……?」


 無言だったので、声をかけてみた。

 すると、セイラから思いもよらぬ言葉を告げられた。


「……お、お前が、解呪をしてから、私はおかしくなってしまったのだ……!」

「え……」


 少し強めの声に驚く。


「え、ではない! わ、私のお尻のことだっ! ダンジョンブレイクが終わったあと、この『剣礼祭』の間もずっと……ずっとだ!」


 セイラはもじもじしながらも俺に詰め寄ってくる。

 彼女の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。


「自分で……物を突っ込んだりしてみた……だが、それでは満たされないのだ……っ」


 真面目な話をしているようで、かなり卑猥な話だ。


「だから……だから――私を狂わせた責任をとれっ!!」

「えっ、ちょっ!?」


 そう言ったセイラは、俺の手を引き、ベッドの上へと連れて行き、突然スカートを脱ぎだした。


「セ、セイラ……っ」

「……恥ずかしい! けど、お前に触ってほしくてたまらないのだ!」


 窓から差し込む夕陽が、より一層セイラの頬を赤く染めていた。


「……その代わり……今日は、私の身体を好きにしていいっ…………だから、私のお尻を……このもどかしい感覚を、どうにか収めてくれ……っ!」


 そして、今度はブラウスにまで手をかけ、セイラは上下ともに下着姿になった。

 彼女の髪と同じ薄青の綺麗な下着。ただ、パンツのほうは既にぐっしょりと濡れていた。


「――俺は、前戯を大事にするタイプだ」

「そ、それはどういうことなんだっ」


 理解できないセイラに近づく。

 氷のような美しさを持った顔がすぐ目の前にあった。


「もちろん、お尻のことも、ちゃんと収めてやる――でも、俺はちゃんとセイラと仲良くなりたい」

「お前は……っ」


 直接的な言葉にはしなかった。それでもセイラは悟ったようだった。

 わずかに震える肩に手を添えると、彼女は静かに目を閉じる。

 その長い睫毛が頬に影を落とした瞬間――俺は、そっと唇を重ねた。


「…………顔が、焼けそうに、熱い……っ」

「お前、自分がどれほど美人か知ってるか? 一度はじまったら、止められないぞ」

「いい……お前なら、許す……私を死の呪いから救ってくれたんだ……それくらいの権利があってもいいだろう」

「なら――遠慮なく」


 俺は再度セイラに口づけをし、今度は舌を絡ませていった。

 最初はぎこちないキスだったのに、次第に感覚を掴みはじめたセイラは、俺に合わせるように舌を絡めてきた。


「んっ……はぁ……んぅ……これ、息がっ……シュウっ……はぁ……舌が……あっ……」


 俺はセイラを押し倒し、同じように服を脱いだ。

 そうして彼女の全身を愛撫し、下着を全て脱がした。


 女神に愛されたような美体がそこにはあって、感動さえ覚えた。

 そして、彼女の望みを叶えようと、四つん這いにさせた。


「セイラ――やるぞ」

「や、やってくれ……っ」


 セイラが持っていたローションを手に絡めると、最後に彼女の意思を確認してから、ずっぷりと指を挿入していった――。

 





――――――――


セイラとはこの後も色々します。

その話はノクターン版で公開しています。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る