Day3 鏡 (梶原姉)

 魔法の鏡なら、何が映るのだろう。

 朝起きて、顔を洗う。梶原家の洗面台はほどほどに広く、家族全員の歯磨きセットを置いているが鏡がそれで隠れるほどではない。

 鏡に映った寝ぼけ眼の顔に、化粧水と乳液をつけていく。冷房でかさついた肌に、潤いが戻ってくる。柔らかくなるのは見た目も触感も良いが、塗り込んでいくとなんとなく窮屈な感じがしてくるこの感覚は何年経っても好きになれない。

 何度も繰り返してきた朝のこの時間の中で、何度考えたろう。魔法の鏡に、映るもの。お砂糖にスパイス? 子犬のしっぽ? それとも、あの人の暮らし? ――なんて、そんな人はいないし、この鏡が魔法の鏡に変わることはきっとないだろう。

 だから今日も、いつも通りの散歩だ。

「おはよ。行こっか」

 リードを手に出た屋外は、今日も暑くなりそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る