Day10 突風 (岡田)

「わっ! ……あ」

 一瞬だった。

 急遽必要になった帰省のための学割証を学務の片隅に設置された証明書発行機で発行して、手に持ったまま自動ドアから外に出た。途端の強い風に目を瞑ってしまったその間に、手に持っていたはずの学割証はどこにもない。

「えー……」

 うーん、と自動ドアの向こうを見ると、証明書発行機の前にはそこそこの長さの列ができている。それもそうだろう。元々学生数に対して数が少ないのに、この時期は就職活動のために卒業見込証明書を必要とする学生もまだまだいるのだ。

 そこへきて、10分後から、学務が閉まるより後まで続くであろうゼミが始まるのだ。

今日買わなければならない切符でもなし、諦めて明日再発行するか。

 あーあ、とため息をついて踏み出した足元で、かさり、と音がした。

「あ、なんか踏ん……あっ!」

 拾い上げれば、足跡が薄っすらついてしまったそれは、正しく先ほど発行してきたばかりの学割証で、小躍りしながらまた一歩踏み出すと、もう一度、かさり、と音がした。

 拾い上げれば、それもやはり学割証である。

「……ん?」

 よくよく見ると、どちらの学割証にも己の名前は書いていない。見渡せば、同じように突風の悲劇に見舞われた学生が多かったのか、はたまた管理が杜撰な学生が多いのか、廊下には点々と同じ形、同じような大きさの紙片が転がっている。

「この中から5分で探すの、さすがに無理ゲーじゃね……?」

 自動ドアが開き、散らばった紙片がまた舞い上がるまで、残り三秒。

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