Day8 足跡 (梶原家)

 前夜に雨の降った朝が好きだ。

 いつもはしない、湿った土の匂い。少しぬかるんだ土を踏みしめたそのときの音。ばしゃりと跳ねるのが好きなわけではないから大きな水たまりは避けるけれど、水たまりに映る朝日はきらきらしている。水たまりに足を入れたとき、中の土が一斉に舞い上がるのも楽しい。何よりそれらすべてを――

「あんた、好きだねぇ……。」

それらすべてを、あたしは眠いわ、とぼやきながらもしっかりリードを握ってくれる、ともこさんと一緒にお散歩できるのが、一番嬉しい。

 今日も僕は、足跡を残す。ぬかるんだ地面に、水たまりを背に。ともこさんとのお散歩の思い出に。


「俺も起こしてよ~!」

「はいはい、自分で起きなさいな、大学生。じゃ、行ってきます」

 きよの大声を背にドアを開けたともこさんに、僕はわん、と大きくいってらっしゃいをした。

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