Day7 あたらよ (中嶌)
やっちまった。
今日は実験の予定がないからと、図書館でコピーしてきた翌月に迫った院試の過去問と向き合うこと数時間。ちょうど区切りがついたところで腹が減ったなと見上げた時計は、長針と短針がきれいな直角になっている。そりゃ腹が減るのもやむなし。さぁさぁ帰ろ帰ろ、と支度を整え、立ち上がろうとしたその矢先、外から大きな音が響いた。
音を聞くだけでも痛くなるほどの雨音に、少し離れた席でPCと向き合っていた先輩も顔を上げている。窓は打ち付ける雨の激しさで全く外が見えない状態になっている。こんなに強いのは通り雨に違いない、とは思えども、屋根も何もない通路脇にとめただけの自転車を思えば憂鬱だ。
浮かせた腰を椅子に戻し、机の上にまとめたばかりの過去問のコピーの束を手に取る。わからなかった問題はわからないまま。一度途切れた集中は戻ってきそうにない。大人しくまとめなおした過去問の束を戻し、荷物を置き、一番下の広い引き出しをぐ、と引き出す。
いくつかあるカップ麺の中から選んだそれに湯を入れて待っているうち、雨音はいつの間にか止んでいた。中嶌に釣られたのか、同じようにカップ麺にお湯を注いだ先輩と一緒になって麺を食べ、じゃ、と別れた帰り道、サドルがびしょ濡れになった自転車の隣で見上げた七夕の空には、残った雲の隙間で大きく瞬く星々が輝いていた。
それ以来、どんなに集中していても18時を過ぎる頃にその美しい空の記憶が蘇るようになり、中嶌は「きちんと終わらせて帰る人」の称号を手に入れた。
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