第2話 飢餓の町、消えた希望

 取り急ぎの目的は、食料確保。

 静香は片足サンダルを鳴らしながら、荒野を歩いていた。

 現世では散歩がルーティンだったが、まさか異世界でも歩く羽目になるのは。

そして、歩くと嫌でも思考が巡り出す。


 空腹とは厄介なものだ。

 食べることは生きること、と誰かが言っていた。そりゃそうだろうと聞き流していたが、なるほど、食べないと支配されていく。思考も体も、何もかも。視界は狭くなり、食べることしか考えられない。胃に乗っ取られる。


 はあ。


 静香は大きく息を吐いて、周囲を見渡す。

 相変わらずの、色のない世界。廃墟たち。ただ、建物があるということは、人が住んでいる。人が住んでいるなら、食べている。そういう理屈だってある。


 ならば、と静香は足を早める。

 遠くに見える、色のある廃墟の群れ。おそらく、この世界では「町」にあたるものだろう。


 絶望の淵で、希望を捨ててはいけない。

 レッツ、ポジティブシンキング!

 そんな人間に、幸運は降ってくるのだ。


 静香は無理やり笑顔を貼り付けて、歩いていく。


***


 町は、死んでいた。


 通りには痩せ細った人々が力なく座り込み、その目には何の希望も宿っていない。空腹が、命そのものを削り取っているのがわかる。子どもたちは腹を抱え、小さな体を震わせていた。


 市場は空っぽで埃をかぶり、並んでいるのは腐りかけの野菜や、得体の知れない干からびた肉ばかり。わずかに開いている店も、目の腐った商人がいるだけ。近くの草木は、すでに枯れているか、人の手によって根こそぎ掘り起こされている。


 ――こいつはひどい。

 静香は呆然と立ち尽くした。


 食料が、ここまで枯渇しているなんて。冗談じゃない。

 特売日の夕方でも、これほど悲惨な光景は拝めない。米不足のときなんて、比じゃない。

 この世界では、“飢え”が常識なのか。

 生存競争のハードモード。いきなりネザーに放り込まれた気分だ。


 時にはフードファイター顔負けに食い散らかしてきた彼女にとって、この光景は理解の範疇はんちゅうを超えていた。

 肉も魚も野菜も骨も、男も女も子どもも老人も。何もかもを喰らってきたのに。無力さに失望する。気力は失せていく。


 だが同時に、腹の虫も暴れ出す。早く食べろミンミン! 今すぐ食料をジージー! でないと理性は消滅するぞツクツク!内臓をよじらせながら叫び続けている。


 胃が痛い。物理的に、精神的にも。

 静香は舌打ちをひとつ。


「冗談でしょう。こんなところで、餓死なんてことになったら。笑えない。華麗に映えるはずの異世界生活はどこへ行ったのよ」


 喉はカラカラに乾いていた。

 気づけば足は、いつの間にか町の外れ、川岸へと向かっていた。

 その川に、わずかでも希望を求めるかのように。

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