事情聴取 都立■■■医療センター
はい、■■■医療センター、看護部
――あ、はい。分かりました。ご遺体は仰向けの状態で、病室内のベッドから落ちていました。他には、ですか?えぇと、首が、不自然な方向に曲がっていました。第一発見者?いえいえ、私じゃありません。まだ新人の、はい――夜勤の看護師です。お話、ですか?ちょっと無理じゃないかな、と――はい。あの、余りにもショックを受けて早退して――はい、今日も休暇です。それに、彼女だけじゃありません。あの現場を見ちゃった子は多かれ少なかれ気分が優れないと言っておりまして。
監視カメラ、ですか?ちゃんとありますよ。ただ、その時の映像だけが全く残っていないんです。他は全く異常がないのに、ヤシロさんのところだけ――しかも死亡時刻の死亡時刻の午前4時40分から、5分間ほどだけノイズが入っていて、音も映像も全く拾えていないんです。だから、皆して余計に不気味がってしまって。
そうですよね。疑うのも無理はありませんよね。でも本当に何も映っていないんです――えぇ、その時間、その部屋周辺だけが。刑事さんも疑ってましたよ。でも、そんな事――ねぇ?だって、私達も患者さんとの間に何かあった時に、何も証拠がないと困るんですよ。ほら、今の時代は色々と大変でしょう?コンプライアンス?とか、後は何年も前ですけど、ホラ、障碍者の方が沢山殺されたって事件があったでしょう?アレの影響もありますし、それに何より私達の為でもあるんですよ。
――そうです、何かあった時の為の証拠用ですね。こんな仕事ですし、患者さん達も何がしかの障害や傷を心に抱えていらっしゃるものですから、どうしてもトラブルは避けられないんです。で、そうなった時に何方に責任があるか、という証拠になります。ですから、誰も望んで切ったりなんてしませんし、壊れていないか、なんて特に気を付けてますよ。
続き、ですか。はい、先ず病室のドアは施錠されていて、窓も異常ありませんでした。誰も入る事は出来ません。入口の監視カメラの方は終始正常に動いておりまして、誰も入った形跡はありませんでした――えぇ、勿論です。刑事さん達と一緒に確認されたそうです。ですから、最終的には自殺だろうって。
――ただ、その。いえ、信じてもらえるかどうかって部分がありまして。信じてくれますか?そうですか。何か変わったところ?見つけた?ええと――あ、すいません。ちょっと、その――あの時の光景を思い出して寒気が。
――実は、笑ってたんです。そう、ですよね。信じてもらうのは難しいですよね。でも、本当なんです。私も、他の皆も見たんです。で、だから尚の事、皆して気分が悪くなってしまったんです。え?どんな風に、ですか?えぇと、不自然に――しかも、こうやって――こんな風に、自分で口角を指で吊り上げるように笑ってたんです。無理矢理というか、まるで笑わされてたような感じで死んでいたそうです。
でも――直前にヤシロさんの絶叫を聞いたって人がいるんです。いえ、私達は直接。聞いたのは直ぐ近くの患者さんですね。何というか、まるで錯乱しているみたいな風だったそうですよ。だから、そんな状況とまるで釣り合わなくて、皆して不気味だねって。
あの、今更なんですが、この件も含めて刑事さんには一通りお話させて頂いたんですが――そういえばナントカ係って普通の刑事さんとは違うんですか?はぁ、ちょっと面倒な仕事を、ですか?へぇ、心霊とかオカルト絡みの相談なんかも?大変なんですね、警察の方も。で、ヤシロさんの死因について、でしたね?ですが先ほどもご説明した通り――あぁ、そちらでしたか。はい、確かに首が不自然に曲がっていました。
え?どうやった、ですか?それは、私達にも何とも。何せ刑事さん達もどうやったのか分からないとおっしゃっていまして。他殺の線はないからと一先ずは自殺という形にするとか何とか。なので門外漢の私どもには何も。
――あぁ、そうですね。ええ、首を括ったのなら、確かにそう表現しますね。ですが、そんな風ではありませんでした。はい――なんていうか、本当に不自然に折れていたんです。こう、枯れ木がポキッて折れている様な感じ、と言えば分かりやすいでしょうか?本当に不気味ですよ。私もそんなに詳しくはありませんけど、首ってあんな風に折れちゃうものなんでしょうか?だから、不気味な笑顔と相まってもう怖くて怖くて。
――はい。こんなところでしょうか。それ以外に変わった点、ですか。いえ、特に――あ、あの。そう言えば、えぇと玖条さん?のナントカ相談係って、心霊とかオカルトの相談も受け付けてるんですよね?あの、でしたら一つ。あの、もしかしたら見間違いじゃないかなって思うんですが――信じてもらえます?ありがとうございます。
あの、ヤシロさんが入院直後からスタッフ患者さんの区別なく――その、彼の部屋付近で白い影を見たって人が何人かいまして。えぇ、私もです。具体的に、ですか?難しいですね。白い服を着た、人影でしょうか。私だけだったら気のせいか、疲れてるんだろうって思ったんですが。こんなのでも何かのお役に立てましたか?
――はい、それでは。そうですね、一通りお話はしましたが、何かあればまたご連絡させて頂きます。はい。
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