音声記録1:玖条 慧 2025年7月8日 15:00~

 最悪を想定し、捜査に関する一切を記録として残す。では自己紹介から。玖条慧くじょう けい。年齢は38、警視庁・生活安全部・生活経済課 特殊案件相談係所属。階級は警部補。過去、捜査一課の強行犯所属していたが色々あって、色々たらい回しにされた末に本課に異動。


 その部署だが、まぁ――いわゆる某ドラマにおける「特命係」と言えば、どんな立場か分かり易いだろう。窓際で人材の墓場に等しい。ただ、アッチとは違って俺は一人だが。仕事の内容はオカルト絡み。ただ、当然ながら真面な捜査はしない。


 基本的に警察も法律も幽霊やら妖怪やら怪異やらの存在を前提に存在していない。反面、そう言った相談が寄せられるケースは増加して、だが取り合わねば時代のせいか怠慢だとSNSを中心につるし上げられ、批判される。しかし、真面に取り合うには余りにも非常識。そんな厄介な案件を「対応している」と市民に言い訳する為の部署だ。


 全ての始まりは自称「ユウシキシャカイダン」に所属するヤシロと名乗った男が警視庁麹町警察署に駆け込んだ令和2025年7月7日午前4時から始まった。ヤシロはこう言った。


「ユウシキシャカイダンの仲間が消えた」


 要約すればこんな感じだ。担当した警官は当初、有識者と誤認していた。だから誰の事かと執拗に尋ねた訳だが、当然ながら話が噛み合う訳がなく。やがてヤシロは何を理由にしてか突然錯乱し、署を後にした。誰もが取るに足らない、クスリか、酔っ払いか、さもなくば素面で頭のイカれたヤツに絡まれた程度にしか考えていなかった。頭のおかしな奴と幽霊の目撃情報は気温に比例して増加するのがお約束。


 しかし、だ。意外なところから情報が流れて来た。情報元は……捜査第二課。だが、実際は組織犯罪対策部もだった。それがまず、おかしい。その時になって「ユウシキシャカイダン」が「幽識者会談」だと分かった。俺の方でも色々と調査したものの、酷く難航した。分かった事と言えば、某怪談系雑誌に度々寄稿するライターの一人が「幽識会」と名乗っていた程度。ただ、この程度では関係あるのか無いのかさっぱりわからないと頭を抱えていたところにこの情報を貰った。


 幽識者会談が一体何をしたのか?二課と組対が知っているとなれば経済犯罪、あるいは暴力団、反社、半グレ。オカルト染みた名称とは余りにも不釣り合いだ。仮にその幽識者会談が犯罪組織か、あるいはそういった危険な組織と繋がりがあると仮定して、オカルト雑誌に寄稿するような連中がそんなに大それた組織なもんかね?いや、まだ関係あるかは分からないのだが。


 しかも、調べ始めて直ぐにこの情報を貰った。つまり、捜査第二課も組対も「幽識者会談」なる組織を知っていた、という事になる。ただ、そんな事が有り得るのか?危険な組織ならなんで潰さない?あんな雑誌の片隅にしか載らない連中に、経済犯罪の匂いがするのか?


 しかも、駄目押しに――


 ヤシロが死んだ。精神科病棟で、首を折って死んだ。自殺、だそうだ。死亡時刻は8日未明。ただ、それだけならわざわざ調査なんてしない。


 まるで止めと言わんばかりに、特殊案件相談係宛てに封筒が来た。差出人不明の封筒。宛名もなく、切手も消印もない。庁内の誰かが直接俺に宛てた手紙か。中を確認するとSSDが入っていた。タイミングから見て、恐らく麹町署から消えた記録媒体だ。コレを調査しろという事らしい。酷く嫌な予感がする、杞憂ではない。だから、何かあった場合の為に記録として残しておく。生きていればそれで良し、死んだら――まぁ、後は誰か頼む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る