第1章 蓮の庭へようこそ 2話 二度目の奇跡
促されその家の中に入ると、まるで中世ヨーロッパのお城の中のような気配に
アヤは圧倒された。
少し重めのバロック様式の部屋の壁一面には本が飾られている。
「あの、外の蓮見事ですね」
アヤがそういうとシュラは、
「ここは蓮の庭と呼ばれてる、別名、魂の記録庫」
アヤにベロア生地の赤いソファに座るように促し、シュラは続けた。
「結論からいうわ、まず一つ目、
さっき伝えたように、ここは天国でもないけれど、
あなたたちがいう現実世界とも違う。
ここは、過去を創り変えることが出来る神聖な場所。
私には役割があって、縁がありここを訪ねてくる人たちの過去を変える手伝いをしている」
「過去を変える」
アヤが独り言のように思わずそう呟くと、
「そう、誰彼とここに来れるわけではない、
天の意向と本人の意図が重なって許可された人だけがここに来ることが出来る、
もちろん過去を変えにね」
シュラはまるでアヤの心の中を読むようにアヤの質問より先に言葉を繋いだ。
「特殊な方法で、夢を使って過去を書き変えるの」
すりかえるにも近いわ、アヤを見つめたままそういい、
「大まかにいうと、私とのセッション後、
まずサーンとムンあの子たちが、本人が望む過去の場面まで道案内する、
そこで本人が望むように新しい過去を創造する。
私はただそれを書き記す。
そしてそのシナリオをあなたたちがいう現実世界に落とし込む。
そしてそれまで存在していた書き変える前の過去は逆に夢として処理する。
本人は自分で新しく創り直した過去の中で、目覚め、生き始める。
もちろん、ここの事も、私の事も全部忘れるようになってる」
アヤは片手を挙げシュラにストップをかけた。
「えっと、わかりました、でも、あの混乱しています、それと今私がここにいることは関係あるのですよね?」
シュラは
「もちろんよ」
そういい大きく頷いた。
「いい?結論の二つ目、これからいうことが重要よ、
実はあなたがここに来たのは初めてではないの、
それはもちろんあなたがここに過去を変えに来た一人であるということ、だから、私たちはあなたを知ってる」
今度はシュラが両手を挙げて溜息をつきながら天を仰いだ。
「ああ、でも、それって絶対に絶対にありえないことなのよ、天と地がひっくり返るくらいにね」
シュラは
「本来、ここに来れるのは一度だけ、二度目はないの、それが天の掟なの
つまりあなたが今目の前にいることは、前代未聞だし、不可能なの」
なのにあなたは戻ってきた、私の目の前にいる、それが事実。
そういい、もう一度深い溜息をついた。
「なんでそんなことに、えっと、なってるのでしょう・・」
たよりなくアヤがそう尋ねた。
「あなたがそれを望んだのよ、ああ、もちろん覚えてないと思うけれど、いいわ、見せてあげる」
サーンとムンが瞬時にアヤとシュラに変身した。
「サーンとムン、この子たちはここに来たすべての人間のデータを記憶している、
つまりね、この子たちが記憶庫そのものなの」
アヤは魂の記録庫といわれ、てっきり壁にある書物たちがそうだと思っていた。
「あの日の私たちのやり取りを見せた方が早いから」
(シュラ)―この過去を変えたい、理由は?―
(アヤ)―正道を愛しているから、このままいくと彼の命が危ないんです。
だから、一旦は別れてしまうことを選ぶ過去を創る、それしか方法がないんです。
(シュラ)―つまりあなたは―
(アヤ)―ええ、未来が見える、先見が出来ます―
アヤはなにものをも恐れていない強さでまっすぐにシュラを見つめていた。
(アヤ)―そして、私はまた必ずここに戻ってきます。
二度目は正道と共に生きても彼が生き続けることが出来る新しい過去をここで創ります、その過去が二人で生き続ける未来も創るから―
(シュラ)―あの、ごめんなさい、二度目はないの。
なぜならここに来た人間は二度とここに来ることが出来ない。
そのように天が設定した。ここはそういう特別な聖域なのよ―
誰よりもここを知るシュラはアヤをそう諭していた。
だけどアヤはひるまずこう答えた。
(アヤ)―私は必ず戻ります。絶対に。私の正道への愛が本物だから必ず戻れます。
なぜなら愛に不可能はないから―
(シュラ)―気持ちはわかるけれど・・―
シュラは知っていた。
戻ってきた人間はこれまでも一人もいないし、ここには絶対に戻ってこれない、と。
それが掟でありここの法則なのだ。
(アヤ)―じゃあ、もし戻ってこれたら、もう一度過去を創り直すことを手伝ってください、そう約束してください―
(シュラ)―わかったわ、約束する。あなたがもし戻ってこれたら、手伝うわ、もう一度過去を変えることをね―
「こういうことなの」
シュラがそういい、サーンとムンが元の姿に戻った。
「約束は約束よ、守らなきゃ、それも私の中で絶対なの、
それに考え方によってはこれは奇跡、こんな奇跡の中にいるんだから楽しまなきゃね、だから、私も覚悟した、この命かけても約束は守る、あなたの過去をもう一度変える手伝いをするわ」
ただし、とシュラは続けた。
「未知なの、方法がわからない、もちろん一回目と同じ方法は通用しないってことだけは明確。方法を見つけなきゃなんない、それは私一人の力じゃ無理、あなたにもその方法を見つけるのを手伝ってもらう」
「私にですか?」
アヤは考えていた。ついさっき死の間際で、正道との過去を悔やんでいた自分がいた、そして自分の本当の気持ちを認めたあの時、過去は変えられないけれど、
変えることが出来たのなら、今度こそ素直になって本当の気持ちを、愛してると伝えるのに、と思った。
そして、今そのチャンスがアヤに巡ってきているのだ。
一度目の記憶は今のアヤにはないけれど、
複雑な成り行きではあるけれど、
少なくともここに戻ることを、この蓮の庭に戻ることを自分が望んでいて叶ってる!
そう!シュラのいうように、これはすごい奇跡なのだ!
「やります!絶対にやらせてください」
「OK、その決断受け取ったわ、」
「それでどうしたら」
「決断すれば、物事はすべて縁によって進んでいくの」
シュラはそれは天の法則みたいなもんね、といい腕組しながらアヤをみつめ、
「現実世界でもこれは同じなの、決めれば、自分の目の前に起こること、目の前に来る人が何かしらそこに繋がる気づきやヒントを教えてくれる、それがその未知のドアを開ける鍵になるはずよ」
それがつまりあなたにとっては、私の仕事を手伝うってこと、といい、
「決断する→そのように存在する→それに伴う縁や出来事が引き寄せられる→目の前のことすべてに真摯に取り組む→学ぶ→成長する→実現する、だから最初の決断て大事なのよ、その一連の流れ忘れないでね」
と言葉を結んだ。
「やばいです!なんだかわからないけど、楽しくなってきましたー」
アヤはお腹の底からわけのわからないワクワクが溢れてくるのを感じていた。
サーンとムンもアヤの足にすり寄ってくる。
「アヤおもしろーい!」
「アヤワクワクしてる!」
シュラはそんなアヤを見て、クスクスと笑い出した。
「あんた、最高ね、気に入った」
「私もワクワクと楽しむとするか、天がくれたこの奇跡を」
シュラは微笑んだまま、それから
おっと、あんたの部屋とベッド作んなきゃね、案内するわ、とアヤを手招きした。
「ベッド作るって、あれ、あの藁のお布団にシーツをぱふぅーと、ふあわわんとかけるみたいな?」
シュラは一瞬かたまり、
「あんた、ここアルプスじゃないから」
そうクールに言い放った。
「あ、はい、すいません」
アヤは、ちょっとボケただけなんだけどな~と心の中で呟いた。
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