第43話 過去、七歳のとき5

「もう。驚かさないでくださいよ」


 突然声をかけてきたラルバに驚かされたルトラが、抗議の声を上げる。


「後はまあ、より万全を期すのであれば、扉を開ける前にまずはゴーレムと思わしき、この周囲の騎士の像全てを破壊しておくとよいでしょう」


 しかしラルバはどこ吹く風と無視をして、より万全を期すならと案を出す。


「いや。それはちょっと、卑怯なんじゃないか?」


 レイテは卑怯なのではと抗議したが、確かにそれは有効な案に違いなかった。


「卑怯もクソもありません。尚、一体を破壊した時点で他が動き出す可能性も十分に考えられますので、同時に全ての像を破壊するのが望ましいですね」


 そうしてラルバは、レイテの抗議を一蹴して、できるならばと更なる案を出し。


「とはいえ、まずは扉をどうにかする手段を考えなければなりませんが」


 続けて、されどもまずは扉をどうにかする手立てが必要であると、肩を竦めた。


「いや。それなら問題ないぜ」


 途中参加のラルバは、まだ鍵が見つかったことを知らないのだから仕方がない。


「ええ。その点に関しては鍵が見つかったので、すでに解決しています」


「ルトラのドジのおかげで見つかったんだよ」


 そんなラルバに、すでに鍵が見つかっていることを口々に伝えたリーエとレイテ。


「そうなのですか?」


「ああうん。これだよ」


 俺もまた、問い返したラルバに、この通りとポケットから鍵を取り出して見せた。


「なるほど。確かにこの鍵には扉の紋章と同じ紋章がしかと刻まれておりますし、この宝物庫の鍵である可能性が非常に高いように思われますね」


 するとラルバはこのように言葉を返し、俺は言われてみればと、まだ宝物庫の鍵と確定したわけではなかったなと気付かされつつ、両方の紋章を見比べるが。


「ルトラのおかげとのことですが、執務机の隠し収納にあったのでございますか?」


 続くラルバの言葉に、今度はそう言えば開けっ放しだったことにも気付かされる。


「そう。そこに収まっていた感じだね」


 ともあれ、おかげでラルバの理解が早く進んでいるのだから、何も問題はない。


「ちなみにですが。隠し通路も、フィーロ様ではなくルトラが発見したそうです」


「おや。そうでしたか。それはなんとも、お手柄ですね」


 リーエの捕捉を受け、一瞬だけ意外そうな顔をしつつも、ルトラを褒めたラルバ。


「えへへへ」


 対するルトラは、ラルバに褒められて満更ではなさそうに愛想笑いを返したが。


「とはいえ、だからと言って日頃のドジが帳消しになるわけではありませんし、その後始末を放棄してこの場に居るのもまた、褒められた行いではありませんね」


「あう。すみません」


 しかしすぐに返す刀でぴしゃりと窘められてしまい、へなへなと謝罪を口にし。


「すみませんではなく、行動で示して欲しいものです」


「は、はい! 直ちに片付けて参ります!」


 更に追撃として放たれた言葉を受けて、直ちにと返事をして通路を駆けて行った。


「まったく……」


 まあ、確かにドジの後始末をせずに来たのは、ルトラの落ち度なので仕方がない。


「リーエもリーエですよ。ちゃんと注意をしてください」


「申し訳ありません」


 ラルバもメイド長の立場として、締めるところは締めなければならないのである。


「さて。これで邪魔者は居なくなったわけですが……」


 もっとも、続く言葉から察せられる通り、まだ俺が魔力適正欠陥ではないと知り得ていないルトラを、この場から追い払うことこそが主目的だったようだが。


「フィーロ様自らも、攻略に参加されるおつもりなのですか?」


 ともかくルトラが居なくなったところで、ラルバが参加の是非を問うてくる。


「であれば。フィーロ様がその程度の不利で後れを取らないことは重々に承知しておりますが、魔力が不安定な拡張期間中は避けるべきであると進言いたします」


 だが、こうしてわざわざ場を整え、そのうえ実力を軽視しているわけではないと念を押してまで、魔力が不安定となる拡張期間が終わってから攻略に臨むべきだと。


 そのように進言してくれたラルバには悪いが、俺の答えはとっくに決まっていた。


「いや、参加する気も立ち会う気もないよ。皆に任せようと思う」


 立ち会えないのは若干惜しい気もするが、そもそも軽視できるだけの実力がない俺はどう考えても足手纏いにしかならないので、すべてを任せる以外に正解がない。


「よろしいのでございますか?」


 だというのに、なぜか腑に落ちないといった表情を見せたラルバ。


「せっかくの実力を試せる機会にございますが?」


 どうやらラルバは、俺がこの機会に実力を試すに違いないと考えていたらしい。


「ああそうか! ここも地下室と同じで魔力を遮断する作りになってるし、確かにここならフィーロ様が全力を出しても、はっきりとは魔力が感知できないもんな!」


 まあ確かに、レイテに言われて気付いたが、地下室と同じ作りのこの場所であれば、魔力を遮断するその性質上、外から魔力の大小を検知することは難しく。


「ええ。ですので、フィーロ様の魔力をレイテ様のものと誤魔化すことも可能ですし、フィーロ様が全力を出すによい機会かと思ったのでございますが……」


 そして大小が正しく検知できないのであれば、ラルバの言う通り俺の魔力をレイテの魔力だと誤魔化すことも可能なので、よい機会だというのは理解できたが。


 さりとて、そもそも試すだけの実力がないのだから、是非もなく。


「いえ。きっとフィーロ様のことですから、深いお考えあってのことなのでしょう」


 一方のラルバはと言えば、俺が何かを言う前に自己完結している始末だった……。


「まっ。ともかく立ち合いもしないってことなら、四人でごり押しでいいよな?」


「そうですね。それで問題ないでしょう」


「決まりだな!」


 そうして、俺が立ち会わないのであればと、レイテとラルバが方針を決定する。


「いやー、中身が楽しみだぜ」


「そもそも残っているのでしょうか?」


「荒らされた形跡もありませんし可能性は低くなさそうですが、五分五分でしょう」


 中身に夢を馳せたレイテと、一方で中身が空の可能性も考慮するリーエとラルバ。


「残っているといいね」


 俺も空っぽの可能性は十分にあるとは思ったが、それでも気持ちはレイテ寄りだ。


「それじゃあ! すぐに兄貴たちを集めて攻略に臨もうぜ!」


 さすがにこの後すぐと言ったレイテほどではないが、気持ちは確かに逸っている。


「さすがにそれは性急過ぎです」


「そうですね。せめて明日にするべきでしょう」


「そうか?」


 が、もちろん性急すぎると、レイテはリーエとラルバの反対に合い。


「まあそれでも急過ぎますが……」


「じゃあ明日だな!」


「いかがなさいますか? フィーロ様」


 そうしてラルバからのパスで、最終的な決定権が俺へと回ってきたが。


「まあ、それでいいんじゃないかな?」


「決まりだな!」


 しかしここで決定した通り、明日のうちに攻略が決行されることはなかった。


「私も是非攻略に参加してみたいわ!」


 というのも話を聞きつけたアーシェが、是非に参加したいと言い出したからだ!

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