第44話 過去、七歳のとき6

 夕食後、発見された宝物庫について情報共有を行い、特にサレアの説得に労を費やしながら、なんとか協力を取り付けたところでアーシェが口を開き。


「私も是非攻略に参加してみたいわ!」


 なんとアーシェもまた、攻略に参加してみたいと、嬉々として言い出した。


「……」


 目を輝かせてこちらを見るアーシェに、いやそれはと言葉に迷ってしまう俺。ひとえに、まだ七歳であるアーシェには危険なのではないかと思ったからだ。


「まあ。いいんじゃないか?」


「そうですね。アーシェ様もそれなりに訓練を積んでおりますし、ゴーレムが相手であれば早々に後れを取ることもないでしょうから、よろしいかと」


 ところが、俺の不安とは裏腹に、レイテとエレメアはあっさりと許可を出し。


「あーでも。そうなるとやっぱ、明日すぐってわけにはいかないよな?」


「そうですね。拡張期間中なので、今すぐにというわけには参りません」


 とはいえと、二人はアーシェの参加が決まったもののように、話を進めていく。


「となると大体一か月はお預けかー」


「ごめんなさいね」


「あっ、いや。別にアーシェ様が謝ることじゃないって。そろそろ自分の実力を試したくなるお年頃ってのもわかるしな。よし! じゃあ一か月後だな!」


 誰か一人ぐらい反対して欲しいと思うも、ラルバを始めとして誰一人声を上げず。


「あの……」


 そんな中で珍しく手を挙げたサレアこそ、救世主となり得るのかと期待したが。


「アーシェ様が参加するのであれば、私は参加せずともよいのでは?」


 むしろサレアは、よりアーシェを危険に曝そうとする、刺客に他ならなかった。


「はぁー。また何を言い出すかと思えば。戦いたくないのはわかりますが、アーシェ様が参加するからこそ、万が一に備え、より参加が必須となるのです」


「まあ、だとは思いましたが」


 とはいえ、サレアも言うだけならばタダと言ってみただけのようだったので、何を言い出すのだと呆れ果てた様子のラルバに窘められると、即座に身を引いた。


「いやあの。俺はアーシェが参加するのは反対なんだけど……」


 ただ、いずれにせよ、誰も異論がないようなので、俺が口を開くこととなる。


「えっ? そうなのか?」


「どうしてですの? お兄様」


 すると、不思議そうな顔で聞き返してくるレイテとアーシェ。


「いやどうしても何も、危なくないかな?」


「いやでも、相手はゴーレムだぜ?」


「そうですわお兄様、ゴーレムですのよ?」


 尚、二人がゴーレムだと反論してくるのは、その動力となるコアの上限から、ゴーレムには最高でも上級下位の魔族と同程度の性能しか与えられないからであり。


 しかも、その最高性能のゴーレムを作るためのコア自体の製法が、その作成難易度と素材の希少性から、労力やコストが割に合わないという理由で廃れて久しく。


「仮に最高性能のゴーレムがあの中に待ち受けていたとしても。まあせいぜい五体が限度だろうし、私たち四人とアーシェ様が後れを取ることはまずないって」


 それは例え二千年前であったとしても同じだったはずなので、確かにレイテの言うように当時でも希少な最高ランクのコアを、多数手に入れられたとも思えず。


「……」


 実際のところ、五体以上のゴーレムが待ち受けている可能性は低そうであった。


「なあ、兄貴!」


「まあ確かに。仮に最高性能を誇るゴーレムが、それこそ複数体待ち受けていたとしても、所詮はゴーレムですし経年の劣化もあれば、問題なく対処できるかと」


 加えて、同意を求められたクラッドが言ったように、ゴーレムはあくまで予めインプットされた動きしかできず、その点は性能で迫ろうとも生身に分があるのだ。


「だよな。だから心配はないって」


 つまり、それぞれが一対一で最高性能のゴーレムを難なく相手取れるレイテたち護衛騎士に加えて、五体程度ならば勝利できるサレアが居れば、まず負けはなく。


「そう言われるとまあ……」


 そこに来て、アーシェはスペック上ではサレアに大きく勝るのだから、言われてみるとそこまで心配しなくても大丈夫なのではないかと、そう思えてきてしまう。


「もちろん。中に別の何かが待ち受けている可能性もあり得ますが、とはいえ我ら四人とアーシェ様であれば、最悪は撤退に徹すればどうにかなるでしょうし」


 あるいはゴーレム以外の可能性という反論も、クラッドにより先んじて潰され。


「あまり過保護にせず、経験を積むよい機会と考えてはどうでしょうか?」


「私からも、お願い申し上げます」


 そんなクラッドの言葉に続き、エレメアもまた、ここはどうかと嘆願をしてきた。


「ね、お兄様! いいでしょ?」


 そしてアーシェが、ここぞとばかりに可愛らしくおねだりをしてくる。


「……」


 が、とはいえやっぱり、まだアーシェは子供だしと、躊躇う俺が居た。


「あれだ。そんなに心配なら、フィーロ様も立ち会ったらいいんじゃないか?」


 するとここでレイテが、そこまで心配ならばと、よろしくない提案をする。


「そうですわ! お兄様も立ち会ってくださればいいのよ!」


 それこそが名案だと! 途端に笑顔となって期待の眼差しを向けて来るアーシェ。


「……」


 もちろんのこと、弱い俺が立ち会ったところで何の意味もないのだが、さりとて素直にそう言うわけにもいかず、俺は返答に窮してしまう。


「ね! そうしましょうよお兄様! せっかくなら私の雄姿も見て欲しいし。危なくなっても、これならお兄様がすぐ介入できるし、問題ないでしょう!」


 雄姿を見るのは構わないが、されど足手纏いを増やしてしまっては本末転倒だ。


「はぁー」


 思わずため息をこぼした俺。誰も味方をしてくれない現状では、いつになく乗り気なアーシェを止めることは不可能だろうと、そう理解できてしまったからだ。


「そういうことなら、もう止めないよ」


 結果、まあ確かにゴーレム相手だし、四人だってアーシェに無茶はさせず、危なくなれば引くであろうからと、俺は最終的に許可を出すことにしたのであるが。


「決まりですわね! それじゃあエレメア、お兄様にしっかりとした雄姿を見せるためにも、明日からはより一層鍛錬に力を入れて頑張りますわよ!」


 しかし言葉のチョイスが悪かったのか、俺も立ち会う方向で話が進んでおり。


「しかと了解いたしました」


「それではお兄様。そういうわけですから、明日に備えて今日はもう寝ますわね!」


 立ち会う気はないと訂正する間もなく、アーシェは颯爽と退出してしまった。

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