第45話 過去、七歳のとき7

 ああそうだった。あのとき俺は、即座に立ち会わないと言いそびれたのだ。


 とはいえ、実行はアーシェの四十一日という魔力の拡張期間不安定な時期が過ぎてからと、概ね一か月を待ってからのことだったので、訂正する時間は余るほどにあり。


 なんならば翌日にはもう訂正を入れて、戦いぶりを見て欲しがっていたアーシェを、それはもうしょんぼりと落ち込ませたことは今もよく覚えていたし。


 実は密かに俺の実力をその目で見ることができるかもと期待していた、レイテを始めとした護衛騎士の三人を、がっかりさせていたりもしたらしいのだが。


 しかし結局、最終的には俺も攻略に立ち会うことに相成ったのであった。


 というのも、足手纏いにしかならない俺が立ち会ったとしても、それこそ何の問題もなく安全を担保できる人物が、攻略への参戦を表明してきたからである。



   ***



 地下にある宝物庫とその鍵を見つけた日から一か月以上の時が経ち、アーシェの四十一日どころか、四十八日という俺の偽りの拡張期間も過ぎた頃のこと。


 念には念をと戦力の底上げのために、吸血鬼であるアーシェやエレメアが強化される、満月の夜を決行日に選んだ俺たちは、すでに宝物庫の前に集っていた。


「いよいよですわね!」


「ああ!」


 ここに居るのはやる気に満ち溢れているアーシェやレイテを始め、エレメアとクラッドにやる気のなさそうなサレアを加えた、当初から決まっていた面々と。


「しっかり見ていてくださいね! お兄様!」


「うん。ちゃんと見ているよ」


 結局立ち会うことにした俺や、同じく立会人のラルバと、後はもう一人!


「ああしかし、やはり壊してしまうのは少々以上に勿体ない気が……」


 そのもう一人にして、彼女が参戦するならばと俺が立ち会う決断をする切っ掛けを作った男装の麗人は、騎士の像たちにマークを施しながら勿体ないと嘆く。


「つってもよーミレス様。動かそうとするだけで起動するんじゃなー」


 というのも、レイテに言葉を返されたこの魔将ミレスは、無類のゴーレム好きで。


 それも、あえて放置していた魔王たる父上の間者に、一応報告をかねてと宝物庫の情報を流した、その日の内にすっ飛んできたレベルなのだから仕方がない。


「それはそうですが。しかしこんなに精巧な作りなのですよ?」


 ゆえミレスは、そう言いながらコアの位置にマークを付ける作業を続ける。ゴーレム本体は無理でも、希少価値の高いコアだけは破壊せずに確保するためだ。


 尚、仮にミレスが来なくとも、俺たちもできるだけコアを確保する方針でいたが。


「いや、そう言われてもわかんないって」


 ゴーレムのことなどわからないと答えたレイテはもちろんのこと、調査をしたラルバやクラッドでさえも、ゴーレムに関する専門的な知識を持っては居らず。


 ゆえにこそ、まあ十中八九はゴーレムだろうと、断定すらもできないままに、おそらく胴の中心辺りにコアがあるのではと、けっこう曖昧な有様だったので。


「ああ本当に勿体ない……」


 コアから自作するほどにゴーレムに精通しているミレスの参戦はありがたかった。


 正確なコアの位置をマークしてくれていることもそうだが、ここに居並ぶ百体ほどのゴーレムの、その大よその性能もしっかりと見定めてくれたからである!


「これで全部ですね」


 それによると、ぐるりと左回りに通路を一周したミレスが、最後にマークしたゴーレムと同型の、通路の左右にそれぞれ五十体ずつ居並んだゴーレムたちですら。


 上級コアを搭載した中級上位の魔族に匹敵する、一級品のゴーレムだったらしく。


 宝物庫の扉の両脇に佇む、それらと比べて倍以上もの大きさを誇る二体のゴーレムに至っては、なんと最上級コアを搭載した最高性能のゴーレムとのことだった。


 といっても、経年によってコアに溜め込まれていた魔力が多少は減衰しているらしいので、本来の出力を発揮できず、その性能は八割程度に収まるようだったが。


 ともあれ、扉の前にすら最高性能のゴーレムが二体も立ち並んでいるのだから、中には最高性能のゴーレムが、少なくとも三体以上待ち受けている可能性が高く。


「あとは中のゴーレムですが……」


「まあ別に戦闘中でもマークはできるだろ?」


 あるいは、中に待ち受けているであろうゴーレムへの対処について、ミレスと相談しているレイテが以前に予測した、五体すらも優に超えてくる可能性もあった。


「どうせ中のだって魔力が減ってるんだろうし」


 もっとも、中のゴーレムもまた経年による魔力の減衰が予測されるので、護衛騎士にサレアを加えた四人とアーシェならば、その五倍程度までなら対処が容易く。


「そうですね。ではマークするまでは守りに徹するという方向でお願いします」


 そこに四大魔将の一角たるミレスまで加わるのだから、さほどの危険はない。


 戦力的にもそうだが、ミレスは悪魔族の中でも影魔法かげまほうを相伝している特殊性から影魔族かげまぞくとも呼ばれることのある一族の出で、かつ影魔法の天才と謳われており。


 その呼び声に違わず多数の影魔法を習得しているミレスに、その中の一つである一定時間影に潜れる魔法を使ってもらえば、簡単に危険を回避できるからである。


「まっ。まだゴーレム以外が待ち受けてるって可能性も否定できないけどな」


「ええ。その可能性も十分にあり得るでしょう。万が一にも手に負えない何かが待ち受けていた場合は、私の影魔法により速やかに撤退いたしましょう」


 影に潜っている間はいかなる攻撃をも受け付けず、そのまま影を伝っての撤退も可能なので、地下室という影に事欠かない場所ならば、容易に安全を担保でき。


 だからこそ俺も、せっかくならばと物見遊山で攻略に立ち会うことにしたのだ。


「それじゃあ、この一体だけを破壊しますわね?」


 ただ一方で、安全が担保されてしまったからこそ、動く前にゴーレムを破壊するという、レイテが卑怯だと評したラルバの提案が、却下されていたりもする。


 やはり魔族だからなのか、レイテに続きクラッドやエレメアもそれでは面白くないと難色を示し、だけに止まらずアーシェまでもが同意を示したからである。


 薄々と気付いてはいたのだが、意外とアーシェは魔族らしく好戦的だった……。


 そして結局、動いているところを見ないのは勿体ないと、ミレスもまた別の理由から四人に味方をしたので、先んじて破壊する案は反対多数で否決されたのだ。


「お兄様。よろしいですわよね?」


 ただ、それでも宝物庫を開ける前に外のゴーレムを先に処理するということにはなったので、正しくゴーレムの戦力が分かったことも併せて、俺も異論はなく。


「ああ。いつでも構わないよ」


 ゆえゴーレムを起動するため、まず一体だけを破壊する許可を、アーシェに出す。


「それじゃ行きますわね!」


 そうして次の瞬間! 通路の入り口に陣取っていた俺たちの中から歩み出たアーシェが、ミレスが最後にマークした左手前のゴーレムを一撃で殴り壊したっ!

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