第42話 過去、七歳のとき4

 仕掛けが作動し、隠し扉である本棚が動いたことによって露となった下り階段。


 なにやら開くのが躊躇われる宝物庫に続くというその隠し通路は、本棚が横へとスライドして間もなく通路内に灯った燭台の光に、怪しく照らされている。


「災いねー。まっ、確かにこの規模の城の宝物庫ともなると、何かしらの罠があったり、ゴーレムとかオートマタなんかに守られていても不思議はないな」


 災いが待ち受けていると聞き、確かにこの規模の城ならと、推測を立てたレイテ。


 事実このロンベルム城は、最低限の管理の下で長年放置されてこそいたが、歴史と規模のある城ではあったので、そう間違った推測ではないように思える。


「こっちの宝物庫はわざわざ隠してあったわけだし。それにご丁寧に扉にも警告が刻まれてたって言うなら、それはまあ不用意に開けないほうがいいだろうな」


 レイテが言ったように、わざわざ隠してあったうえに、リーエとルトラの言によるとご丁寧にも扉に警告文まで刻まれていたというのだから、尚更のことだ。


「でもまあ、扉の前までなら問題ないんだろ?」


「ええ。特に危険はありませんでした」


「ですね。そこまでなら大丈夫そうでした」


 とはいえ、どうやら扉の前まで行くだけならば問題はないようなので。


「それなら、とりあえず扉の前まで行ってみようか」


 とりあえず俺は鍵をポケットに仕舞い、扉の文言を確認しに行くことにした。


「だな」


 そうして、即座に応じたレイテの後に続いて、俺は隠し通路へと足を踏み入れる。


「「「……」」」


 レイテを先頭に、無言で階段を下る俺たち。後ろには順にリーエとルトラが続く。


 更に地下へと下る、人がすれ違うことができる程度の幅の、二十段ほどの階段を下ると、その先は二十メートル以上の幅がある通路が百メートルほど続いており。


 その左右には、階段の片側の壁面にも設置されていた、隠し扉の仕掛けスイッチと同じ型の燭台と、今にも動き出しそうなほどに精巧な像が等間隔に並んでいる。


 しっかりとした作りに加え、部屋にあった執務机や本棚と同じように強力な保護の魔法もかけられているその魔道具の燭台は、そのほとんどが機能を有しており。


 そのやはり動き出しそうな、剣や槍を始めとした、明らかに飾りではなさそうな多種多様な武器を手に持った精巧な騎士の像たちに、影と存在感を与えていたが。


「大層な保護の魔法がかけられているってのに、もう機能していない燭台もあるな」


 レイテが言ったように、中には燭台としての機能を失っているものもあった。


「この城は約二千年前に作られていますから、むしろよく持っているほうでしょう」


 とはいえ、この城の来歴を鑑みれば、確かにリーエの意見にこそ道理があり。


「そんなに前からあったのですね」


「まっ、なんにせよ。問題なのは、それなのに劣化がほとんど見られないこの騎士の像だよな。なんか魔法もかかってるみたいだし、これ絶対動いて襲ってくるぜ」


 だよね! そうだよね! やっぱり動きそうだよねっ!


 だからこそ、ルトラが来歴に驚く傍らに、劣化がほとんど見られない騎士の像に言及し、動き出すのではないかと口にしたレイテに、俺は内心で強く同意する。


「そうですね。調査をしたラルバやクラッド様も、その可能性を示唆していました。十中八九ゴーレムの類であり、宝物庫を守るための機構に違いないだろうと」


「なんだよ。兄貴には言ってたのかよ」


 そうして、リーエの口からラルバたちがすでに調査をしていたという新情報が飛び出したりもする中、俺たちは遂に通路の終点にある扉の前へと辿り着いた。


 そこは通路よりも更に一回りも高く大きく開けた場所となっており、その両開きの扉の左右には、通路のものよりも遥かに大きな騎士の像が二体配されている。


「えっと、なになに「我が宝物は無垢なる者のみに授けられる。無垢ならざりし者が我が宝物を求めれば、その身に大いなる災いが降りかかるであろう」か……」


 そんな二体の像に威圧感たっぷりに見下ろされる中で、その華美な装飾と彫刻が施された、厳かな両の扉に刻まれていた文字を、しかと読み上げてくれたレイテ。


「こういうわけですので。フィーロ様も攻略に立ち会うとおっしゃるのであれば、しかと入念な準備を整えてから解錠に臨むべきだと、再度進言申し上げます」


「そうだね。そうしたほうがよさそうだ」


 もとより開けるつもりはなかったが、確かにこれはと、リーエに同意を示す俺。


「ちなみに立ち会わない場合は、どう攻略するつもりなのかな?」


 なんか扉には無垢なる者であれば大丈夫だとも書かれているが、皆に嘘をついている俺が無垢なる者に該当するわけもないので、ここは皆に任せるのが吉だろう。


「まあこの分だと、中に待ち受けてるのも十中八九は騎士同型のゴーレムだろうし、エレメアとサレアを主軸に、私と兄貴の四人でごり押しでいいんじゃないか?」


 すると、上級の魔族四人による力押しという大雑把な攻略法をレイテが立案し。


「まあ妥当な案でしょうね。あなたとクラッド様は地下では本領を発揮できないとはいえ、上級魔族四人がかりでかかれば、まず後れを取ることもないでしょう」


 炎を主体にして戦うがゆえに地下では本領を発揮できない二人が混ざることもあって、俺としては大丈夫なのかと心配になる案を、リーエまでもが採択して……。


「ですね。あっ、でも! 果たしてサレア様は協力してくれるでしょうか?」


 どころか、ルトラまでもが楽観した様子で、果たしてと別の問題点を挙げた。


「あー。あいつ戦うの嫌いだからなー。まあ最悪は三人でもいいんじゃないか?」


 そしてなんと、最悪三人でもと、更に心配になることをレイテが言い出したが。


「いえ。さすがにサレア様にもお願い申し上げ、万全を期しておくべきでしょう」


 しかしこれにはリーエが反対してくれたので、少しだけ安堵することができた。


「そうか?」


「ええ。おそらくサレア様も、アーシェ様が強くお願いすれば無下にはできないでしょうし。ここはやはり、上級魔族四人での攻略が望ましいかと思います」


 少なくともリーエには、楽観しているわけではなく根拠があるように見受けられ。


「そうですね」


「うひゃあ!」


 更にそこへ響いた声が、ルトラを驚かしつつ、俺の不安を大いに解消してくれる。


「リーエの言うように万が一の事態に備え、四人全員で攻略に臨むべきでしょうね」


 通路をつかつかと進みながら言葉を続けたのは、独断専行でもって俺を困らせることも多いが、されど聡明で分析力に優れたメイド長のラルバその人だったからだ。

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