地下下下人間
地上で人間が文明を築いている一方、地下では地下人間が文明を築いていた。
そして、地下の下では、地下下人間が文明を築いていた。
さらに、地下の下の下では、地下下下人間が文明を築いていた。
一人の地下下下人間の青年が言った。
「この目で本物の太陽を見てみたいんだ」
青年の親友が、隣で首をかしげる。
「本物の太陽なんか見て、いったい何になるんだい? 本物の太陽なんて、暑くて眩しいだけだろう?」
「本物の太陽から降り注ぐ本物の光を浴びて、本物の大気が起こす本物の風を浴びて……僕は本物の自由になりたいんだ」
そうして青年は旅に出た。遠い地上の世界を目指して。
途中に訪れた地下下人間の世界で、青年は巨大なジャガイモの大群に追われることになった。地下下では多くの地下下人間がジャガイモの栽培に従事していた。
青年は地下下に留まり、最終的にジャガイモたちと和解することができた。
次に訪れた地下人間の世界では、不動産バブルが発生していた。
頭上のほうの土地の取引が自由化された影響で、地下では地価が高騰していたのだ。
青年はひょんなことから知り合った相手に勧められ、小さな土地の権利を購入してみた。額はごくごく小さかったが、それは数日のうちに大金に化けた。
味を占めた青年は、取引に熱中した。
しかしバブルはやがて弾け、利益はほぼ失われた。
そういったあれこれを経験しつつ、青年は旅を続けた。
一年ほど経ったある日、青年が旅から帰ってきた。
親友が尋ねる。
「地上はどうだったんだい?」
「地上は……」
青年は口ごもりながら答えた。
「連日最高気温が40度に迫るようなの猛暑で、とてもじゃないが暑すぎた……。暮らすなら、地下の下の下がいい」
うなだれる青年に、親友は憐れむような目を向けることしかできなかった。
(2025/10/29 改稿)
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