第3話:その空き巣、処理対象に認定されました

この世界に来て、1年が経った。


言葉もだいぶ話せるようになり、歩くのもそれなりに達者になった。だが、周囲の認識では俺はまだ「お利口でちょっと手先の器用な1歳児」である。


つまり、“わりと何をしても許される”年齢なのだ。これはでかい。全力で遊んで、全力で観察して、時々全力でスキルを試しても咎められない。


さて、そんな折。


スキル『廃棄物処理』について、俺なりにいくつかの仮説が立ってきた。


まず第一に、「触れたものが“不要物”と判定された場合、自動で処理される」らしい。処理というのは物体の消滅、つまり完全な“存在の削除”である。


第二に、「その定義は俺の主観による可能性が高い」。つまり、俺が「これはゴミだ」と思えば、それはゴミになる。


紙くず、割れた皿、腐った食材——これはまぁ、誰が見てもゴミだ。


問題はここからである。


ある晩、邸宅の裏口が、夜中にそっと開けられた。


俺は物音に気づいて、こっそり廊下へ這い出た。まさか赤ん坊が巡回してるとは思わないだろう。ええ、思わなかったようだ。


そこにいたのは、フードをかぶった男。ナイフを手に、サッと影のように動くその姿——間違いなく空き巣、あるいは刺客。


当然ながら俺は戦闘力ゼロ。泣くべきか、逃げるべきかと一瞬迷ったその時。


スキルが、勝手に反応した。


「——チッ、なんだここの構造……って、なんだあれ……赤ん坊?……おい、見たな——。」


ガシッ。


その手が俺の肩に触れた瞬間だった。


“消えた”。


音もなく、風もなく、ただ、そこにいた男が「いなかった」ことになったかのように、完全に、跡形もなく。


その場に残ったのは、少し焦げ臭い空気だけだった。


「………………え?」


脳が数秒間フリーズした。思考が現実に追いつかない。


やがて、じわじわと事実が染み込んでくる。


あれは……俺が“ゴミ”と認識したからか? “危険で、害のある存在”として——つまり、「社会の不要物」として、スキルが処理してしまった?


……待て。


“ゴミ”って、なんだ?


腐った食材、壊れた道具、使い終わった紙——それは確かに物質的なゴミだ。でも、あの男は? 人間は? “犯罪者”は? 俺の安全を脅かした時点で、存在ごと“廃棄物”になったってことか?


「……やば。」


ぞわりと背中に悪寒が走った。


このスキル、単なる清掃機能じゃない。処理対象に“命”も含まれる。いや、命ですらなく、“存在”すら飲み込む——いわば、世界にとっての不整合を修正する力。


完全に、チートだ。


「けど……使い方を間違えれば、俺が“ゴミ”になるな……。」


異世界でのんびりスローライフ、なんて甘い話じゃない。生まれて初めて、俺はこの力に対して“恐怖”を感じた。


ラグ・ディースフェルト、1歳。空き巣を処理したことで、自分がとんでもない掃除機に進化していることを自覚した冬の夜だった。


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