第4話:貴族当主として、うちの子は優秀すぎるかもしれない件について
「ラグ様は、本当に……不思議なお子様でいらっしゃいますね。」
朝の紅茶を持ってきたメイド長のエルマが、ぽつりと呟いた。
彼女は我が家で一番長く仕えている老練な女性で、どんな子供にも動じないと評判だったが、俺に関しては、どうも評価が違うらしい。
「誕生からずっと穏やかで、おむつ替えのたびに匂いが消えているのです。……いえ、匂いだけではありません。中身すら、どこにも……。」
それは俺が“廃棄物処理”スキルで処理しているからなのだが、当然彼女たちはその理屈を知らない。ただ、「消えている」という現象だけを受け取っている。
「シーツも、よだれかけも、彼が使ったものだけ、どういうわけか汚れないのです。」
「はっはっはっ、それは息子が綺麗好きな証拠じゃないか!」
父親のダリウスは高笑いしているが、彼も心の中では気づいているらしい。
俺の行動には、規則性があると。
「……あいつの行動は、誰かが決めたかのように整っている。無駄がない。泣き方すら、計算されている気がする。どう思う、シルヴィア?」
母親のシルヴィアは微笑みながら紅茶を口に運び、しばらく目を閉じてから言った。
「ラグは……この家を、掃除して回っているのです。床の埃も、棚の隙間の汚れも、誰より先に気づいている。……それが偶然とは思えませんわ。」
メイドたちも皆、同じように感じていた。
床に転がっていた針金が、ラグが近づいた瞬間に消えた。
厨房に放置された腐りかけの野菜が、彼が“見ただけ”で消えた。
犬が吐き戻した毛玉が、ラグの手に触れた瞬間に……「なかったこと」になった。
そして、何よりも決定的だったのは——
「昨晩、屋敷に入り込んだ盗人が、忽然と消え失せた件について……ラグ様は、見てしまったのでしょうか?」
エルマがぽつりと漏らしたその言葉に、シルヴィアはそっと頷いた。
「警備隊が隅々まで調べても、遺留品一つ見つからなかったのよ。まるで、この世に最初からいなかったみたいに。」
「……怖くはないのか?」
ダリウスが問う。
我が子が人一人を消したのではないかという疑惑、それを“能力”と認識するならば——それはもはや神の領域だ。
「怖いですわ。でも、それ以上に——。」
シルヴィアの瞳は静かに、けれど力強く輝いていた。
「——誇らしいです。あの子は、この世界の“汚れ”を、本当に見えているのでしょう。だからこそ、迷わずに“片付ける”ことができるのです。」
「……当主の器、あると思うか?」
「十分に。むしろ——私たちが足元にも及ばないほどに、ね。」
静まり返った部屋の外で、俺は、はいはいしながら屋敷の壁に残っていた“鳥のフン”を処理していた。
——よし、これで完璧だ。
俺がこのスキルを使いこなせる限り、この家は清潔で、平和で、何より……“余計なもの”のない楽園になる。
ラグ・ディースフェルト、1歳、評価項目に“神性”が加わった冬の出来事である。
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