母親

私はコウモリ

 私は鞄をみたときハッとした。

 アクセサリーがない。

 鈴の音がなるアクセサリーが、佳奈のお気に入りのアクセサリーが、ない。

 びしょ濡れで帰ってきたときもしっかりとあったあの、アクセサリーがない。

 落ち着こう。

 冷静さを保て。

 私は怒らずに聞くの。

 いい?

 よし。

「アクセサリーどうしたの?」

「なくなっちゃってるけど。」

 佳奈はこちらの様子を見てこないまま答える。

「どうでもいいでしょ。」

「アクセサリーたった一つだよ。」

 その様子は安心なのか恐怖なのか、私には判断がつかない。

 さんざん怒ってきたのだから、怖がられていてもおかしくない。

 それに、家族のなかを佳奈に取り持ってもらっていた。

 私が怒れば仲裁に。

 夫が怒っても仲裁へ。

 怒られれば、笑ってごまかしてた。

 どこか不器用で、ひきつった笑顔。

 その顔を見る度、いたたまれない気持ちになった。

 今でも、その癖は直っていない。

 むしろ、怒られることも怒ることもが増えて悪化してる可能性まである。

 佳奈は学校でもうまくいっていない、私はそう感じた。

 でも、行動するには早いかもしれない。

 盗られたか、取れたのか、取ったのか、確証がない。

 確証はないが、行動するべきだろう。

 明らかにおかしい。

 びしょ濡れで帰ってきたときも、いつもつけてたアクセサリーがない今日も。

 おかしい。

 先生相談?

 いや、違うな。

 どうせ、事実は確認できませんでしたとかなんとか言うと分かっている。

 なら、どこだ?

 私には話さないだろうし、夫にも話さないだろうから、他人に佳奈が安心して話せるところ……。

 分からない。

 うまく言えば、出てこない。

 やはり一度、先生に?

 そこで、いじめ相談と調べてみた。

 どうやらそういう窓口がある、らしい。

 私は電話をしてみようと思ったが、佳奈が家にいるから一旦止めた。

 明日。

 私は仕事を休む。

 今そう決めた。

 有給休暇という制度があるのだから、こういうときに使わないでいつ使うのだ。

 私は佳奈が寝たあと、一人で考えていた。

 これがいじめ?

 佳奈といっていることが本当だったら?

 そしたら私は、超音波の使えないコウモリみたいだ。

 目を光らせているあの。

 でも、目が悪いからよく見えないし、周りの把握が難しい。

 夜行性だから、夜にこうして考えている。

 明日は雨らしい。

 この気持ちこど流してしまえれば、きっと楽しいのだろうな。

 でも、一番大変なのは佳奈のはずだ。

 私は、佳奈の心の傷を治せる絆創膏になって、水が滲みないように守りたい。

 ただ、それだけなんだけどな。

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