涼香
笑顔は大事
杉本先生が、こっちを見てた。
でも、いじりは止まらなかった。
いや、止まれなかった。
どんな報復が待っていようと、どんな結果になろうと、居場所がなくなることの方が怖いから。
それに、みんな気づいていなかったようだし。
佳奈はたぶん気づいていたけど。
目で訴えていた気がするけど、杉本先生は気づかなかったみたい。
佳奈がいつもの癖で笑っていたからだろうね。
笑顔なら問題ないと思われたんだろうな。
可哀想に。
私はその杉本先生を見ていて、不安だった。
もっと言うと、気づかれたらと思うと、ゾッとしたし、罪悪感で壊れてしまいそうだった。
でも、それと同時に、先生でも解決できないことをしてると感じると、少し嬉しかった。
だって、まだ仲間がいるということだから。
こんなこと辞められると思う?
理解者はいないし、家にも居場所がなくて、家では娯楽もないし、ご飯を食べるだけ。
勉強をするだけの自室で、ただひたすら勉強をして、成果を親に報告する毎日。
学校を休んだら、殴られ、蹴られ、なにもさせてもらえない。
携帯も持ってないしね。
私。
お母さんはいつも同じことを言う。
「たくさん勉強して、この家を救って。」
「お金持ちになって、お母さんを楽にして。」
私にはたぶんだけど、一生かけても救えないと思う。
顔が笑っていないお母さん。
九時頃に帰ってきて、お酒を飲んで怒るお父さん。
神様すら、ここにはいない。
だったら、個人の私に救えるはずないよね?
高校も頑張って偏差値のそこそこ良い公立の学校に入れた。
私立はそもそも受験してなかったから、中卒で働くことになってたかもね。
そんなことはどうでも良いか。
先生はそのあと、教室を出ていった。
玲香と佳奈のひきつった笑顔をみたあとで。
私はもう、なにやってるのか分からないや。
最近刺激にも飽きてきたし。
そろそろ新しい刺激がほしいな。
できれば余裕のない人になにかをしてやりたい。
相対的に私がその人よりも上に立つの。
相対的に私は幸せになるの。
一時的で良い。
ほんの一瞬で良いから。
私を幸せにしてほしい。
神様はどこかにいると、教えてほしい。
あぁ、イライラしてきた。
そんな人は現れないと分かってるからかな?
目の前には、佳奈の鞄。
その鞄には可愛いアクセサリー。
盗ってしまったら、私はついに犯罪者だろう。
それでも良い。
あっちの世界には、私よりも悲惨な人がいる。
その仲間になれるのだから。
むしり取るアクセサリー。
跳ねる心臓。
回る血流。
焦る心。
ニュートンの前で落ちるリンゴのように、私のこの行動は必然だ。
そう言い聞かせ、私は笑う。
回りの奴らも嗤ってる。
私の口角は少しだけ、ひきつっている気がする。
でも、奴らは気づかない。
もう仲間とすら思えないような、奴らも杉本先生も、両親ですら多分だけど気づかないだろう。
ずっとこの笑顔で、生きてきたのだから。
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