玲香
見てしまった
あたしは見てしまった。
佳奈が保健室に入ってくところ。
どうして?
やっぱり、涼香ちゃんのいじめのせい?
最初は佳奈とは仲良くできてた。
一緒に佳奈の部屋で勉強したり、教室で団欒したりした。
あたしは誰かに自分から話しかけれないタイプで、自分のペースで生きてきた。
そんな私が初めて自分から話しかけて友達になれたのが、佳奈だった。
これから、もっといろんなことをするつもりだった。
でも、気づいたら涼香ちゃんが、あたしたちの間に割り込んできた。
これじゃ、涼香ちゃんだけが悪者になっちゃうね。
あたしも悪いの、佳奈と一緒にいると楽しくて、他の子をなにも考えてなかった。
それに、いじりを止められなかったから。
最初は、佳奈の魅力がいろんな人に伝わればいいなと思ってた。
でも、涼香ちゃんの目的はこのときからあったんだと思う。
いじりはいじめと紙一重。
その言葉の想いが今、分かった気がする。
涼香ちゃんって、先生には笑顔で接するし、話しもうまいし、頭もいいし、運動神経もいい。
あたしからみたら完璧に思える涼香ちゃんが、なんで、佳奈に、あんなことできるんだろう。
いじめの対象が佳奈と知ったとき、あたしは立ち尽くした。
なにも言えなかった。
後悔しかしてない。
なんであのとき止めなかったのか。
なんであのとき怒らなかったのか。
分からない。
答えがでない。
そういう場面になったら、自然と答えが浮かぶものだと思ってた。
でも、解はない。
人生には、解答がない。
その言葉の意味がはっきりと分かった。
だから、あたしは変わる。
今日、涼香ちゃんにはっきりと言う。
いじめはよくない。
さすがに度を超えてる。
佳奈に謝れって言ってやる。
あたしがあたしであるために。
佳奈との日常を取り戻すために。
教室、佳奈の机で屯してる涼香ちゃんのグループ。
時計をチラッと見る。
朝の会が始まるまであと五分。
外はまだ雨が降っていた。
先生には見られたくない。
だって、ただの喧嘩だと思われたくないから。
歩きながら息を整える。
涼香ちゃんの肩を静かに叩く。
「ねぇ、涼香ちゃん。」
後ろを見た涼香ちゃん。
その目は野獣のようで、いつもの涼香ちゃんの目じゃなかった気がした。
怒りでも、笑顔でもない、無の表情だった。
いつもの笑顔が消え去っていて、奥には冷たく光る瞳孔がある。
そんな表情だった。
いい淀むあたしに、涼香ちゃんは尋ねる。
「……なに?」
声のトーンがいつもより低い。
なんでそんな顔をしてるのだろう。
恐れているのか、怒りなのか、分からないけど、獣を狩るようなそんな印象だった。
言うつもりだった言葉が、喉から出てこない。
佳奈の行動、周りの視線、涼香ちゃんの声、涼香ちゃんの目。
言葉が喉のなかで引っ掛かって、突っ張ってーー出ない。
言うんでしょ?
早く、早くしないと、って声がする。
ほら、今しかないよ、って心に言い聞かせる。
喉が閉じる。
胸が締め付けられる。
目が揺れる。
音が遠退く。
だめだ。
あたしじゃ、だめなんだ。
あたしは、首を横に振ってしまう。
そして、ついに逃げてしまった。
結局あたしは、なにがしたかったんだろうね。
こんな弱虫じゃ、なにもできやしないのにね。
あたしは傍観者。
ただ、それだけだった。
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