涼香

正義とは?

 言葉を出そうと必死な玲香の顔を見てると、思った。

 正義ってなんだろうって。

 いじめを解決すること?

 悪者から助けること?

 でも、悪者にも正義があるはずで、ヒーローにも正義があるなら。

 その差はあまりないんじゃないかな?

 でもね、いじめを自覚しているのにいじめるのは、皆からみたら悪役なんだろうな。

 私はそんな傍観者の玲香の行動を感じで、なにも思えなかった。

 自己満足とも違う。

 憐れみでもない。

 どんな感情なのか理解できなかった。

 だから、無表情になってしまった。

 笑顔を作って接すると心に誓ったのに。

 私は笑顔が嫌いだ。

 皆の笑顔は心から笑顔じゃないから。

 特に、佳奈。

 いつも怯えてて、怖がって、まるで昔の私みたい。

 だからっていじめてもいいわけじゃないし、悪者になりたいわけでもない。

 ただ、この世界がどのくらい汚いのか、教えたかっただけ。

 誰か一人でも気づいてくれればいいと思った。

 私を使って。

 その行為がエスカレートしていったのは認める。

 でも、完全な悪ではない。

 皆もいじめをしてるって分かっているのだろう。

 それなのに、先生には誰も言わない。

 みんな気づかないふりをしてる。

 でも、その方が楽なのかもしれない。

 目の前でいじめの光景を、見て見ぬふりするのは、とても簡単だから。

 私は、典型的ないじめっこじゃない。

 ただ、少しだけ周りに敏感で、少しだけ運動ができて、親から勉強を強制させられてるだけ。

 いたって普通の女子高校生。

 このまま進むと大学に行くのだろうし、予定調和な日々が待ってる。

 それもいいと思う。

 だけど、刺激が欲しかった。

 その為だけにいじめてるわけじゃないけど、確かに刺激にはなっている。

 佳奈の反応が面白いのも、涙を堪えて保健室に入ってくところも、それに感化された玲香が私のところにきたのも、全部が私の刺激。

 その刺激だけが、私を生かす唯一ではないけど、一つの方法、この薄汚い空気を一変させる一つの方法だから。

 さて、今日はなにしようか。

 罪悪感がないわけじゃないけど、ここまできたら止められない、辞められない。

 いつか、謝れる日は来るのだろうか。

 私だったら絶対に許さないことをしてる。

 その自覚はある。

 ただ、あと少しだけ。

 あと少しだけ。

 いじめさせてくれない?

 このつまらない毎日を変えるために。

 毎日、同じ制服、同じ仲間、同じ怒号、同じ作り笑顔。

 その全てに吐き気がする。

 だから、これは反抗なの。

 親への、いや、世界への反抗。

 空は今、泣いているのに、自分が泣けないことが怖いよ。

 共感できないことをしてると自覚してるから、恐いの。

 辛いよ。

 もうこんな日々、辞めたいよ。

 ここで止めたらなんて言われるか分からなくて恐いよ。

 皆からどんな報復を受けるか教わってないもん。

 だから、辞めない。

 止めない。

 私は臆病で、弱いから。

 辞めたら私の立場がなくなってしまうから。

 だから、私は典型的ないじめっこじゃない。

 ……そう言い聞かせてきたつもり。

 今日の放課後は傘を隠そうと思う。

 理由は周りが言ったから。

 濡れている佳奈を見てみたいから。

 あと、サンダルは元に戻しておくよ。

 もう、使い道ないもんね。

 ノートに落書きもしておくよ。

 悪口いっぱい書いておくね。

 あ~あ、手が汚れちゃった。

 ふと、玲香の一瞬のためらった顔がフラッシュバックした。

 その顔は、言い出せなくて困っている様子ではなくて、自分の関与をごまかそうとしている顔だった。

 そして、思ってしまった。

 ……あの子も、私と同じ加害者なのかもしれない。

 でも、そんなことどうでもいいよね。

 だって、環境が違うんだから。

 私の家では怒号が飛び交うのが普通なんだよ?

 つまり、私と玲香を比べることはできないんだよ。

 でも、意外と似てるかもね。

 行動したのは一緒でしょ?

 今から家へ帰る。

 びしょ濡れで帰る佳奈をみてから、冷凍庫よりも冷たい、あのリビングに。

 ただ、こんな日々が続くと思うと泣きたくなってくる。

 学校から走って帰る佳奈。

 それをみて笑う仲間。

 私は仲間の顔をみた。

 人間の本当の笑顔に見えてしまった。

 全てを雨のせいにして、仲間と一緒に笑顔を作るの。

 みんなに仲間意識を持たせるために嗤うの。

 笑えば少しだけ、仲間でいられるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る