第41話 すれ違う想いと、揺れる心の交差点


ある放課後、吹奏楽部の部室。

高安真悠は今日も楽器の調整をしながら、頭の中でぐるぐると考えていた。

妃芽の表情がずっと気になっている。

あの微妙な距離感。

それを感じているのは自分だけじゃないはず。

すると、部室の扉が開き、藤井渚が軽い足取りで入ってきた。

「真悠、今日は遅いな。何かあった?」

「うん、ちょっと……考え事してた」

渚は真悠の顔をじっと見つめる。

「音無さんのこと?」

真悠は小さくうなずいた。

「彼女も最近、何か悩んでるみたいで……」

そこに、バスケ部の松藤依与吏が部室の前を通り、目が合った。

「お、おう……」

松藤は少し疲れた表情をしていた。

「依与吏くん、最近妃芽さんの様子、どう思う?」

渚が尋ねる。

松藤は苦しそうに息をつく。

「正直、彼女に対して重くなってしまった自分がいる。

好きすぎて、押しつけてしまったことを後悔してる」

真悠は驚いた。

「そんな風に思ってたんだ……」

その時、倉地貴秀と原舜聖が部室の前を通りお互い気づき、立ち止まった。

「みんな、話してるところに入って悪いけど……」

倉地は真悠を見つめる。

「俺も妃芽のこと考えてた。

お互いに好きでいたのに、どうしてこんなにすれ違うんだろう」

渚が静かに言った。

「こういう時こそ、ちゃんと話さなきゃいけないのに……」

真悠が決意を込めて口を開く。

「みんな、ありがとう。

私は逃げたくない。ちゃんと向き合いたい」

その言葉に、部室の空気が少し変わった。

「向き合う勇気と、解けないもどかしさ」

部室に意図的ではないが集まったメンバーの空気は少し重いけれど、確かな変化を感じていた。

「じゃあ、みんなで一度、ちゃんと話そう」

真悠の言葉に、皆が静かにうなずく。

その日は特別に、吹奏楽部の練習が終わった後、部室で話し合いの時間を作った。

まず、妃芽が静かに口を開いた。

「私、ずっと自分の気持ちに嘘をついてたのかもしれない。

真悠に対して…友達以上の感情があるのに、認めたくなかった」

その言葉に、真悠は驚きと同時に胸の奥が締めつけられた。

「妃芽……それ、私も感じてた」

藤井渚が優しく言った。

「本当に好きな人の前では、怖くて素直になれないこと、誰にでもあるよ」

バスケ部の松藤依与吏は、苦笑いしながら言葉を継いだ。

「俺も重くなってしまって、彼女に負担をかけてしまった。

けど、今は彼女の気持ちを一番に考えたい」

倉地貴秀も静かに口を開く。

「俺たちみんな、妃芽のことが大事だから、こんなに感情が絡み合ってしまう。

でも、それは裏を返せば、みんなが彼女を想っている証拠だと思う」

真悠は深く息をついて言った。

「私も、自分の気持ちをもっとはっきりさせたい。

みんながいるから怖くない。みんなと一緒に頑張りたい」

皆の目が真悠に向けられ、温かい空気が広がる。

その夜、真悠は親友の竹井華にLINEを送った。

真悠「今日、みんなで話せたよ。怖かったけど、少しだけ前に進めた気がする」

竹井華「よかったね。真悠のこと、ずっと応援してるからね」

真悠は画面を見つめながら、微笑んだ。

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