第8話 わたし、どうしたらいい?


夜10時を過ぎたころ。

風呂上がりのソファに寝転がって、スマホをなんとなく眺めていると、

画面の通知が光った。

華からの着信。

いつものように2コール目で取る。

「もしもし」

「ねえ、真悠、今大丈夫?」

声のトーンで分かる。

何かあったのは、私じゃなくて華の方だ。

「うん、平気。なにかあった?」

「……いや、別に。なんもないけど、なんか声聞きたくなった」

「それ、私が言いたいやつなんだけど」

「え、真悠どうした?」

「……いや、ちょっとね、疲れたなって思って」

部屋の明かりを消して、スマホのライトだけに包まれた空間。

画面越しに笑ってる華の表情が、なんかまぶしかった。

「また妃芽?」

「……うん。いや、もう妃芽のせいとか思いたくないんだけど、

 なんか…結局、好きになった人がまた妃芽に惹かれてくの見ると、苦しくて」

「そっか」

華の返事はいつも、短くて、ちゃんと聞いてくれる。

「私さ、たぶんもう“好きになるのがこわい”んじゃなくて、

 “妃芽と比べられるのがこわい”んだと思う」

「……うん」

「好きになっても、その人の目が妃芽に行った瞬間、

 私の全部が、ただの“つなぎ”にされる気がして」

「…………」

「私って、誰かの“好き”にちゃんと選ばれたこと、一度もないかも」

ポロっと、出てしまった。

言うつもりじゃなかったのに、夜の空気って、心のドアをゆるくする。

「……真悠」

そのあと、少しだけ沈黙があって。

「真悠は、ちゃんと“好きになれる人”なんだよ。

 誰かに好かれることより、誰かを好きになれる方が、よっぽどすごいよ」

「でも、私ばっかり、バカみたいじゃない?」

「バカでもいいじゃん。バカじゃなきゃ、恋なんかできないし」

「華って、ほんとに……やさしいね」

「うん、真悠限定のね」

画面越しに、ふたりで笑った。

この人がいたから、私はいままで何度も立ち直れたんだと思う。

恋は全部、失敗してきたけど——

この友情だけは、いつも私の味方だった。

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