第四章
1
東京は名古屋に比べて色々なものが違っていた。まず人の多さに圧倒される。町は人を受け入れてくれるように感じたが、人はそうではない。勿論、直接「出ていけ」などとは言われていないが、田舎者である自分からすれば、疎外感を持った。空気感とでもいうのだろうか。横山には、適当な言葉が浮かばなかった。その空気感を作っているのは、人間である。そこにいる人間は、テリトリーを作る。原宿で言えば、原宿ファッションというものだ。自分はそれとはかけ離れているような印象を抱く。流行についていく。もしくは、流行を作っていく。それが原宿で生きる掟であるように思う。しかし、名古屋に住んでいれば、情報としては、耳に入ってくるものの、肌感覚として、分からない自分がいた。それが疎外感の正体であった。自分は住民として受け入れられていない。勿論住んでいないから当たり前であるが、東京の者にとって自分は風景であった。
ライブは成功を収める。チケットは完売し、握手券として売り出しているから当たり前であるが、CDも爆発的に売れた。すると、派手なスーツを着た男が、プロデューサーと話し込み、メンバーの3人がつれていかれるのを、横山は偶然目にした。他のメンバーも同様である。ざわざわ....妙な空気感となる。他のメンバーは、プロデューサーやマネージャーと共に、名古屋に帰らされることになる...
「これから練習だよ!」
プロデューサーがそういった。メンバーは不満を口にしたりはしないが、そのまま帰ることになった。新幹線では、メンバーの3人がいないことを不思議そうに話した。しかし、感づいているものも何人かいた。あの手の港区男は、アイドルの卵を食うのが好きなのである。連れていかれたのはいずれも、18歳を超える。つまり、本人たちがイエスと言えば、それは、合法なのであった。合法とはいえ、倫理的に許されるかと言えば、一概にそう言えない。
2
そのメンバーはと言うと、例の派手なスーツの男と共に、高級レストランに向かうこととなったのだ。
「さあ、たんとお食べ。それからライブお疲れ様!」彼女たちは不思議そうな顔をして尋ねる。
「何で私たちだけなんですか?」
「プロデューサーが君たち3人を推薦してきてね。私は、レコード会社の役員だ。私は君たち3人を売り出したいと考えている。友達が言うことだから間違いない。君たちは売れるよ。」彼女たちは顔がほころびそうになるが、それを必死に押し殺し
「えーほんとですか!」そういった。
「だから遠慮はいらない。」彼女たちはステーキを頼んだ。彼女たちには味の違いは分からなかったがそれでも、「おいしい」と言って食べた。心の中では、もうちょいソースが欲しいなというが、港区男が
「ここの肉は、脂がのっていて、ソースいらずだろ」というので、彼女たちはソースを付けずに食べたのであった。
「肉の繊維までしっかり味わい給え」彼女たちは脂身を恋しく感じながらそのステーキを食べるのであった。
そして、店を出る。そして、運転手付きの車を走らせ、とあるビルに入る。暗い雰囲気の店であった。顔を近づけて初めてお互いの顔を認識できるほどの暗さであった。今度は、彼女たちにはどういった類の店か分からないものであった。丸椅子と、低いテーブル。木でできた椅子。それに腰かけ何やら、ひそひそと話す男と女。ベットで寝ている男女が二人にしか分からない痴語を話すようであった。
そこにはテレビで見るような男もいた。タレントである。思わず声を掛けそうになるが、それは叶いそうになかった。男は黒い帽子にサングラスをかけていた。髪の色はテレビで見ているから知っている。シルエットでもそれを男は分からせた。それがオーラと言うのだろうと、彼女たちは思った。その店で立っているのは彼女たちだけであったが、魅せにいる誰もが気に留めない。例の港区男も紹介するそぶりも見せなかった。何と為に連れてきたのだろうか。分からない。ここにいていいのか、だんだんと不安になってくる。足の感覚が徐々になくなっていった。足が疲れてきた。さっきまでライブで踊りまくり疲れているのだ。どこかに腰かけたい衝動に駆られる。どうすればいいか分からず、とりあえず、その場から動いていなかった。
すると、例のタレントが話しかけてきた。
「そこの真ん中の背の高い子」
辺りをきょろきょろと見渡す。港区男が名前を言った。
「松井ちゃんだよ」
「そういう名前なんだ。松井ちゃんさ。ぼくの近くに来てよ」
松井は、近くに寄った。松井の格好は、Tシャツに短パンに、スニーカーと言った格好であった。明らかに場違いであった。そのタレントは、松井の体を上から下までなめまわすように見た。松井は一瞬ぞっとした。触れられていないのに、体を指先でなぞられたような感覚になった。また、服の中を通さないと触れられないところまでその感覚になる。髪の毛も同じ感覚になった。テレビで見る印象とは真逆であった。その男は、松井に言った。
「君今から時間あるの?」
「え、ええ」
「じゃあさ、ぼくの家連れて行ってあげるよ」突然の提案に戸惑った。すると、男は言った。
「なに?いや?」
「嫌だなんて...」すると、港区男は言う。
「よかったじゃん。いきなり招待してもらえるなんて、ファースト?セカンド?」港区男は言うとタレントは
「サードに決まってんじゃーん」そう言って爆笑した。一同も笑う。何を笑っているか分からない。松井は取り敢えず口角をあげておく。そして、いきなり真顔になり
「じゃあ、行こうか」タレントはいきなり、松井の手を取り、店を出たのであった。港区男は、残された二人を見て言った。
「それでは、私はこれで」3人は店を出た。あっという間に、夜であった。ライブが昼過ぎに終わり、そこから飯を食べ、数時間店に滞在させられ、気づけば夜であった。港区男は、東京駅まで送った。そして、タクシー代と称し、5万円を渡す。2人はそれで帰ることとなった。臨時収入を得た気分になった。しかし、落ち込んでいる。自分は選ばれなかったのだ。心の中でむせび泣いた。これが人に選ばれないということなのかと彼女たちは思った。松井は今頃何をしているのであろうか。車内では二人は無言であった。
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