第13話

「ユーマの野郎がねぇ……」


 拠点としている宿屋の自室にて、俺はギルド内を駆け巡っている話を思い返す。

 なんでも、自分を馬鹿にしたやつを助けた挙句、ディザスターベアとかいう格上に挑んだんだとか。

 本当に、心の底から思う。――あいつほど愚かで救えない人間はいない。


 何が良くて、敵を助けなきゃならない。馬鹿じゃないのか?

 決闘で恥をかかせた相手だったんだろ? 罠だとかは考えなかったのか?

 考えなかったんだろうな。あいつはそういう奴だ。だからこそ、切り捨てた。


 あいつは、俺の道に必要ない。


「本当に馬鹿だな。ユーマも、ギルドの連中も」


 冒険者ギルド内では、その一件から一気にあいつを見直す空気になりつつある。

 格上食いもそうだが、駆け出したちに指導まがいの事をしているらしい。ほぼボランティアみたいな金を貰ってな。


 そんなことをして何になる? うわべだけちやほやされて嬉しいってか? 反吐が出る。

 大事なのは中身だ、結果だ。馬鹿な連中にはわからんだろうがな、冒険者ってのは駆け上ってなんぼの世界だ。

 これが俺のいるべきところだから? 俺は自分の思う事さえできればいい? 負け犬の遠吠えだな。それ以上上を目指せないからこそ、目指さない言い訳をそれっぽく言いつくろっているにすぎない。


 ユーマがその最たる例だ。人助け? 反吐が出る。あいつの自己満足のために、俺たちがどれだけ苦労して、どれだけ損失を被ったことか。

 周り回って帰ってくるとか力説してた時期もあるが、そんな不確定要素に賭けてる時点で馬鹿なんだよ。


 今回だってそうだ。深手を負ったユーマとその隣にいた女を殺して手柄を奪うことだって可能だった。依頼主が馬鹿だったから、命拾いしただけさ。

 それだけの事なのに、まあ盛り上がっちゃって。祭りの調子に浮かれた猿どもみたいだ。


「ただ、手は打っといて損はねぇだろう」


 這い上がろうとするなら、もう一度蹴落とすだけだ。

 あいつには這いつくばってもらわないといけない。俺の輝かしい未来のためにな。


「やっとだ。やっと、貴族の連中にコネを作るところまでこぎつけたんだ」


 あいつを悪党に仕立て上げた名声で、俺は一気に地位を駆け上がっている。

 これで万が一にもあいつの評価が覆ってみろ。その時は、この地位すら疑われる。


「邪魔な奴をやっとの事で消し飛ばしたってのに、また邪魔されてたまるかよ」


 何のためにここまでやってきた。何のために今の今まで我慢してきた。

 全てこの先にあるもんを手にするためだろうがよ。見えてる石ころに躓いている余裕なんざどこにもねぇ!


「ミラ! お前も変な事考えるんじゃねぇぞ」


 部屋の片隅で沈痛な面持ちをしているミラに釘を差す。

 自分が捨てた男の癖に、まだ彼女面か? これだから女は。切り捨てたんなら、いないもんとしてちゃんと扱えよ。


「……うん」

「変な罪悪感なんざ抱いてるんじゃねぇよ。お前も俺と同類だ、必要ないもんは切り捨て、上を目指す。満たされたいんだろう?」

「……わかってる」

「今更あいつの元になんて考えるなよ? 見ただろ、あいつの隣には既に別の女がいる。ああ見えて、手が広いことだ。なんなら、お前と付き合ってた時から――」

「やめて!」


 ミラが叫ぶ。


「それ以上は、聞きたくない」


 はっ、と笑い飛ばしてやる。お前がまだ未練ありそうな雰囲気出してるから、踏ん切りつける手伝いしてやってるんじゃねぇか。

 なのに被害者面か? お前も立派な加害者だってのに。


「忘れろとまでは言わねぇ。でも、お前もそろそろ自覚しろ。誰が一番あいつを傷つけ、誰があいつに対しての決定打になったのかをな」


 まあ、そうするために俺がせっせと仕込みを頑張っていたわけなんだが。

 そこまで言う必要はないだろう。

 女ってのは、ある程度言葉を投げかけてやれば勝手に想像してくれる。都合がいいにしろ、悪いにしろ、これほど扱いやすい奴らもいない。


「黙って見てろ。何も余計なことするんじゃねぇぞ。……あいつは明日から、犯罪者になるんだからな」


 冒険者ギルドの連中を味方につけた? 別にいいさ。

 社会は、世間はまだあいつの敵だ。更に、それらすらねじ伏せるだけの権力が俺の味方にはいる。


 何があっても、あいつに日の目は見させねぇ。

 下らねぇ理想を抱いたまま砕けて消えろ。クソ野郎が。


 断じて、お前が正しかっただなんてことはない。

 正しいのは俺だ。結果を以て俺は証明してみせる。お前を否定しつくすことでな。

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親友に彼女だけでなく偽りの噂によって未来すら奪われた俺が、かつて救った女の子に救われて失われた幸せを取り戻すまで パンデュ郎 @pandora

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