第64話 ニライカナイ
津波に巻き込まれてメノウの体が暗い海に沈んでゆく
泳ぎは得意なはずなのにまるで、見えない手に掴まれたように手足を動かすことができない
海の中には美しい魚が自分の周りを泳いでいる
海の向こうには
父は生前、言っていた
人は死んだら魂は皆、海を渡り、西にある
ーー死んだお
ーーお
ーーメノウがいい子にしていれば、いつかは会えるよ
じゃあ、人を殺してきたお父さんは、死んだらどこに行くの?
体が沈む
海の底だというのに、光が、鮮やかな輝きが見える
その光に包まれると、心が安らかになる
光の中には死んだ、
ここが
ーーやっとみんなに会えたんだ
「メノウ!私を置いて行かないで!」
振り返った
ーーお母さん
そこには病院にいるはずの義理の母親の姿があった
そうだ、私はこんなところで死ぬわけには行かない
お母さんを助けるために戦わなきゃ
まだ、お
目を開くとそこは見知らぬ天井だった
ベッドで寝かされている
「ここは、どこ!」
「うるせえなあ」
隣に備え付けられているベットから男が目をこすりながら起き上がる
20代前半の若い中国系の男
短く刈った髪に中肉中背の日に焼けた顔をした男で、口髭を生やしている
男前と言える男だが、その男はメノウが追いかけていたターゲット『ジェット=チェン』だった
「あ、あんた!」
「てめえ、デウスエクスマキナの殺し屋か!」
二人はベットから飛び上がる
ジェットは拳を振り上げてメノウに殴りかかる
メノウはその拳を交わすと琉球空手で磨いた正拳突きをジェットの腹に打ち込んだ
しかし、ジェットはその一撃を左手で受け止めている
ジェットは後ろに下がると棚にあるカップや受け皿をつかむとメノウに向かって次々に投げつける
メノウは『ゴルゴンの腕輪』を使い、素早く、盾を展開してコーヒーカップを受け止めてゆく
カップや受け皿は割れて床で粉々になってゆく
「くっ」
当然、今のメノウは裸足
このまま、歩けば足を負傷する
「だああああ!!」
ジェットは棚をメノウに向かって倒した
「きゃああ!!」
メノウは棚の下敷きになり、動けなくなる
「へっ、ざまあ見晒せ」
ジェットはそういうと扉から出て行こうとした
「騒々しいわよ、あなたたち」
ジェットの目の前にはメイドが立っていた
「な、なんだお前は」
「寝てなさい」
メイドはジェットの腹に思いっきり、拳を突き上げた
「ぐおっ!!」
強烈な一撃にジェットは反吐を吐くとその場にうずくまる
「あなたたち、私の仕事を増やさないでくれるかしら。誰が、この残骸や、あんたが吐いた吐瀉物の処理をすると思っているの?」
メイドは華奢な体に似合わないパワーで棚を持ち上げる
下敷きになっていたメノウは仔犬のように這い出した
「ありがとうございます、あなたは?」
「私はエヴァよ。この家でメイドとして雇われているの」
メイド、エヴァは表情を変えずにそう告げた
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