第63話 テンペスト
嵐
聖書に出てくるような雨が、この海上都市『ベネグラス』に振り続ける
聖書によれば四十日四十夜、雨は降り続けて地上は海に沈んだが、それと同じことが起きそうだと思わせる未曾有の災害である
ベネグラスの住人たちは、すでに船に乗り、アルカディアへと避難を開始している
街は津波に飲み込まれて、行方不明者や死者は百人単位で出ている状況だった
教会の塔の上でレインコートを着たNo.ⅩⅠニーナは『端末』でNo.Ⅰジル=ナカムラに呼びかける
「・・・・・・はい、申し訳ありませんターゲット『ジェット=チェン』を追っている最中に天候が変わり大雨になりまして、メノウはターゲットと共に津波に飲み込まれ、波は激しく、そのまま、二人は流されていきました」
雨の中でニーナはもうしわけなさそうに頭を下げる
「本当に申し訳ありません。私がついていながら迂闊でした」
「過ぎたことは仕方がないわ。この件はあなたのせいではない。でもメノウも我々と同じナンバーを与えられたGUNS N’ AIGIS の一員。こんなことで死ぬとは思えない。それにあの子は泳ぎなら、我々の中で一番なのだから」
励ますジル=ナカムラにニーナ=カンタはお礼をいう
「・・・わかりました。雨が止んだらフランと共にターゲットとメノウの探索に入りたいと思います」
「あなたたちも気をつけなさい。銃を持つ敵よりも自然災害の津波の方が危険だわ」
3日前に、都市国家アルカディアでデウスエクスマキナの幹部が殺された
殺したのは幹部の部下だったジェット=チェンという中国系の男だった
彼は幹部を殺すとそのまま、金を奪い、海上都市ベネグラスへと向かったことがわかり、彼を捕縛、もしくは暗殺するためにブラックドックと共にメノウを派遣した
メノウを連れて行った理由は彼女が、海上都市での移動に使うボートや船の運転ができること、若い娘ということで情報収集やターゲットに警戒されないことである
メノウがベネグラスでジェットを発見する
その時には雨が降り始めていた
ジェットはSIG M17を撃ちまくって海岸まで逃げ出した
メノウはアテナの盾で弾丸を防ぎながらジェットを追いかける
海岸に来た時に、津波が突然起こり、ジェットとメノウを飲み込んでしまったのだ
後ろを走っていたニーナとフランはどうすることもできなかった
まるで『意思』をもつように波は彼女たちを飲み込み、何処へと連れて行ってしまったのだから
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