第62話 ブラック・メイド

オリュンポス山地下にあるデウスエクスマキナの地下本部『エリュシオン』


この地下にあるパンドラの箱が現在の欧州の、世界の運命を決めている


祭壇の間にある大型コンピュータ『パンドラの箱』の前に女が一人、跪いていた


歳のころは20代前後


黒い髪を腰まで伸ばし、前髪を切り揃えた美女で左目をアイパッチで隠している


目を見張るのは彼女が纏う漆黒のメイド服であり、おそらく彼女に会うものは一度はその物珍しさに振り返るだろう


「No.Ⅹ『エヴァ=アンジェ』此度の働きを私は評価している、ありがとう、助かったよ」


パンドラからの優しい言葉こそ、彼女にとって全てである


その言葉が聞けるならば、この黒いメイドはどこまでも戦い、世界を脅かすパンドラ様の敵を何人でも串刺しにできるのだ


「はっ、パンドラ様」


顔を上げると目の前にはホログラム映像で映し出された長老パンドラが現れる


パンドラは優しい微笑みで顔を上げたエヴァ=アンジェを見つめた


その眼差しはまるで母が娘を見るようであり、二人の姿は髪の色こそ違うが、鏡合わせのようによく似ていた


「しばらく、お前に休みを与える。最近、忙しかったからね。存分に休むがいい」


「パンドラ様、ひとつお聞きしたいのですが」


黒いメイド『エヴァ=アンジェ』が口を開く


珍しいね、何も興味を持たないエヴァ=アンジェが任務の情報以外で何かを聞きたいというのは珍しいことだった


「なんだい、いいから言ってみな」


「それが・・・ターゲットを暗殺した時にあの部屋に一人の女がいました」


先ほども述べたがエヴァ=アンジェが他人に興味を持つのは珍しい


ユナ=ブライド


彼女の存在がこの、娘の心に何か影響を与えたのか?


「ああ、あれがNo.ⅩⅢユナ=ブライドだ、お前と同じく、道敷カグトを狙っていたのさ」


「あれが、ブラック・ブライド」


エヴァ=アンジェも噂には聞いている


変形する魔銃ハデスを持ち、幾多の暗殺を成功させてきた女だ


いつもならば、何も興味のない話だった


それは自分の方が強いという確信があるからである


しかし、道敷とあの女の壮絶な戦いが、この『左目』が50km先から映し出されていた


噂以上の戦いぶり、あの戦い方に何者にも興味を持たない殺人メイドであるエヴァ=アンジェの心が揺さぶられたのだ


「パンドラ様」


「なんだい」


「私とブラック・ブライド、どちらが強いですか?」


「興味を持ったのかい?ユナ=ブライドに」


「いえ、私はパンドラ様以外に興味は持ちません」


「そうだね。私はGUNS N’ AIGIS同士の私闘を禁じている。だから、あんたたちが戦うことはまずあり得ないが」


パンドラは顎に指を添えながら面白そうに笑う


「まず、あんたの方が勝つね。ブラック・ブライドは永遠の未完の絵画なのだ。『異次元の射手ディメンション・シューターとさえ呼ばれる完全なる殺し屋であるお前が負けるはずがない」


当たり前だ


自分はパンドラ様の絶対の銃


ーー私の『アルテミス』は最大100kmの射撃を可能にし、私の左目は何m先のどこにいようが敵の姿を正確に捕らえる。ブラック・ブライドの魔銃の威力がいくら絶大でも射程の外から狙撃できる私の方が勝つ


でも


ーーあの道敷と彼女の戦いを見た時私は彼女と全力で戦ってみたいと思った。私は初めてパンドラ様以外の人間に関心を持ってしまった。私の心は一体どうしてしまったのかしら





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