第6章

第61話 疑惑



「ジル!」


道敷カグトがNo.Ⅹに暗殺された後、ブライドは作戦本部に飛び込んできた


その内心は穏やかではなかった


なぜならば、ターゲットであった道敷カグトは自分のことをレイラと呼んでいた


自分はそのような名前の女には覚えがない


その女と自分は似ていたのか?


そして同じ顔をした女は最近、もう一人出会っている


ディビッドを父と呼んでいたデュオだ


最近、自分の周りで自分の知らないことが起こりすぎている


このことをどうしても、はっきりさせたい


そして、口封じするように道敷を殺したNo.Ⅹ


あいつは、いつからあの場所にいたのだ


そのことをNo.Ⅰジル=ナカムラは本当に知らなかったのか


何もわからない、わからないことばかりで頭が混乱している


「あら、何?私の花嫁さん。今、立て込んでいるんだけど」


ジルは軍の制服たちに囲まれて状況を説明しているところだったが、知ったことではない


冷静に見えて、ブライドは火がついたら飛び出してゆくタイプの女である


「何ではない!No.Ⅹが!ターゲットを勝手に始末した」


その言葉を聞いてジルはキョトンとする


「それがどうかしたの?私たちの任務は道敷の始末だったはずよ」


「奴は死ぬ前に私のことをレイラと呼んでいたぞ、聞き覚えはないか?」


「さあ、他人の空にでしょ」


レイラという言葉にジルは表情を変えなかった


メガネの奥の瞳は全く、動じていない


ポーカーフェイスは奴のオハコであり、ポーカーは3回に1度は必ず負ける


だが、逆に確信を持つ


ジルは何かを自分に隠している


瞳は動かさないが、自分に嘘をつく時は必ず、ジルは口元で微笑みを作っているのだ


「ジル!」


ブライドはジルの胸倉を掴んだ


「お前と私は良い相棒だった。これまでずっとだ。その私に隠すのか?」


「あなたねえ」


ジルはため息をつくと、ブライドの足をかけて床に押し倒した


「ぐっ」


背中を床に叩きつけられてブライドは息を漏らす


「頭を冷やせ」


ジルは冷たい口調でそう言った


「No.Ⅹは私の部下であって部下ではない。長老パンドラ、直属の殺し屋だということを忘れるな」


「だが、奴は私のことを知っていると言った。父のはずのディビッド、私と同じ顔をしたデュオ、そしてレイラ!わからないことばかりだ」


「レイラは道敷の娘だ」


部屋に少女の姿をしたNo.ⅩⅡランドルフとNo.Ⅵレイス=ヴァナルガンドが入ってくる


「ランドルフ!」


ジルは道敷の娘だと言ったランドルフを非難するようにいう


「構わんさ。ここで言わずとも、この程度の情報、彼女ならば簡単に探し出せるよ」


「あんた、知っているな。なぜ、道敷は私をレイラという女の名前で呼んだ、その理由を」


ランドルフはニヤリと幼い顔についている花びらのような唇を歪めて笑った


「ああ、知っているとも、私は道敷と共にレイラとディビッドに戦闘技術を教えたのだからね」


ディビッドの師がランドルフということは知っていたが、そのレイラという女も共に戦闘技術を学んだ弟子の一人ということか


「だったら、なぜ、奴は私とレイラは似ていると言ったのだ?答えてくれ!ランドルフ!」


ブライドは起き上がりランドルフに駆け寄ろうとする


しかし、レイスがそれを阻む


「どけ、レイス」


ブライドはレイスを睨んだ


レイスは首を振る


「駄目だ。ユナ=ブライド。お前を親父に近づけさせない」


「レイス!」


「どかない」


二人の間に殺気が渦巻く


レイスの顔からは銀色の体毛が生えかけている


ここを無理やり押し通ろうとすれば、奴は人狼と化して襲いかかってくるだろう


殴り合いになれば人狼のレイスの方が分があるのは一目瞭然


しかし、力づくになろうとも、ここでレイラの真意を知るランドルフに聞いておきたかった


「来い、狼の坊や《ウルフベイビー》、喧嘩の仕方を教えてやろう」


ブライドは拳を上げて臨戦体制をとる


レイスはグルルルと狼の唸り声を上げる


「喧嘩はやめて、二人とも〜、ランちゃんこわ〜い」


ランドルフは口元に握り拳を持っていって高い少女の声をあげる


壮年モードから幼女モードに突然切り替えたランドルフにブライドはずっこける


「お前な〜!」


「しかし、頭は冷えただろ。忘れてはいないかね?GUNS N’ AIGIS同士の私闘は御法度だとということを」


「それは」


ブライドは言葉を詰まらせる


「先ほどの問いだがな。一つ答えてやろう。お前はレイラと容姿が瓜二つなのだ」


「それはどういうことだ?」


「さあな、世の中には似た人間が三人はいるというからな。そのうちの一人だったのではないかな」


「馬鹿な、そんなことが」


煙に巻くような言い方だが、それ以上の言葉はもう、ランドルフからは出てこないだろう


「馬鹿なことが起きるのが世の中だろう?そんなものだよ、ははは」


ランドルフは愉快そうに笑った

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