第59話 復讐の末路

屋上からビル内に道敷は逃げ込んだ


リベリオンから降りたメノウはアテネの盾とパラスのショットガンを持って道敷を追いかける


「どこ!もう逃げられないよ!大人しく投降しなさい!」


メノウはビルの中で叫ぶ


「全く、こんなビルの中でかくれんぼなんて洒落ならないっての」


元はホテルだったこのビルは隠れる場所などたくさんある


メノウは客室の扉を開けながら道敷を探す


道敷は客間の陰でダガーナイフを構えながら潜んでいた


左腕は機銃で破壊されて使い物にならない


だが右手だけでもメノウ相手ならば十分戦える自信があった


この部屋に来たら、あの厄介な盾を掻い潜って、あのか細い喉笛をこのナイフで貫く


相手は年端もいかぬ子供でかわいそうだが、奴も組織の人間というならば手加減も同情もするつもりもない


その時だった


扉が開く音が聞こえた気がして道敷はナイフを扉の方へ向けた


誰もいない


しかし、道敷の勘がこう告げる


危険だ!


ズドン!


何も無いところから銃声が鳴り響き道敷は紙一重で銃弾を交わした


視覚機能を赤外線スコープモードに変換する


赤外線スコープは体温あるものを可視化する


姿は隠せても体温までは隠せない


そこには確かに、何者かが銃を持ってそこにいた


「魔術迷彩か!」


銃弾をかわして道敷は暗殺者に向かってダガーナイフで突きを入れるも、銃身でその一撃を受け止められる


ガチン!ガチン!ガチン!!


銃とナイフで打ち合い、火花を散らして格闘となる


見えない暗殺者も相当な腕である


ズドン!!


銃口から飛び出した銃弾が義体の耳を吹き飛ばした


もう、数センチズレていれば、電子頭脳を銃弾が貫いていだだろう


汗をかかないアンドロイドの背筋から冷や汗が流れた、そんな気になった


見えない暗殺者は蹴りを放つ


その蹴りを受けて道敷は後ろに吹き飛ぶ


ガードしたが、重い蹴りだ


しかし、この蹴り、どこかで覚えがある


はるか昔、よく組み手でこの蹴りを受け止めてきた


再び、暗殺者は銃を撃つと、道敷はダガーナイフが粉々に砕け散る


しかし、この距離ならば、道敷は素手でも負けない


見えない暗殺者のその腕をとり、床に叩きつけた


暗殺者の体が地面に叩きつけられた次の瞬間、迷彩が切れてその姿が顕になる


短い銀髪の赤い瞳の女


色白で整った顔立ちをしている


女の首筋を道敷の指が、ブライドの銃『ケルベロス』の銃口が道敷の胸に突きつけられていた


道敷がその気になれば、女の銃が突きつけられる前に、その首に貫手を食らわせて頸動脈を掻っ切っていた


しかし、その女の顔を見たら道敷にはそれ以上、指を喉笛に押し込むことはできなかった


その女の顔は、その戦い方は、道敷はよく知っていたのだ


「レ、レイラ?!レイラなのか!?」


「?!貴様、何を言って・・・!?」


「いや、馬鹿な、お前はもう20年以上前に死んだはずじゃあないか!?」


道敷は驚きながら叫んで体をブライドから離す


ブライドも突然の道敷の豹変に銃を撃つことを忘れた


ターゲットが自分のことを『レイラ』と呼びながら叫び出して呆気に取られていたのだ


レイラとは誰だ?


自分はそんな人物の名前に覚えはない


しかし、目の前のターゲットは確かに自分のことをレイラといっている


「まさか、あの事件は俺の思っているようなものではなかったのか?デビッド!ランドルフ!なぜ、お前たちは俺にこのことを黙っていた!!?」


次の瞬間、窓ガラスを突き破って一本の金属の棒のようなものが道敷の頭を貫いた


黒い色のアダマンチウムでできた矢である


その矢を見てブライドは察した


これはNo.Ⅹの矢


No.Ⅹは他のGUNS N’ AIGISのメンバーと違い、ジル=ナカムラではなく、パンドラから与えられる命令を直接こなしている


単独行動でその姿はほとんどのメンバーが知らない


唯一わかっているのは、アダマンチウム製の矢による狙撃を得意としていることと、『異次元の射手ディメンション・シューター』という異名のみ


奴が動き出したということは、組織による道敷の口封じである


「おい!」


ブライドは倒れた道敷の体を抱き起こした


「レイラとはなんだ。お前は何を知っている!」


ブライドの腕の中で、矢で顔面を破壊されたことにより、道敷は本来、表情のないアンドロイドの顔だというのに、笑っていたように見えた


その顔は死にゆくというのに、どこか満足した表情だった


「レ、イラ、アイタカっ・・・た」


目から光が失われた


それが道敷の最後の言葉だった


「ブライド!」


部屋にメノウが飛び込んでくる


倒れている道敷を見てメノウも察した


「もう、終わったよ。全部な」


ブライドは呟いた


ーー復讐なんて碌なもんじゃあない。復讐なんてやめちまえよ


ゲイルの言葉を思い出す


復讐に取り憑かれたこの道敷という男の末路は壮絶だった


しかし、歩みを止めるわけには行かない


必ずデビッド=シンを追い詰めるとブライドは心の中で誓うのであった











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