第58話 魂《オリジン》


心臓を撃ち抜かれて道敷は地面に倒れた


「迦具斗!」


ランドルフは倒れた道敷に駆け寄った


「見事だ。ラン、銃でも魔術でもお前の方が上だったな」


道敷は笑みを浮かべながらいう


しかし、その顔には死の色が濃い


人工心臓を撃ち抜かれたのだ


血液の供給がいかなければ、必要な酸素の供給が失われて脳細胞は死滅する


「最後までお前には体術は勝てなかったさ」


「本当に、お前は、ディビッドの奴によく似ている、こうしてみると瓜二つだ」


「お前は、本当にデビッド=シンを愛していたのだな」


ああ、道敷は頷いた


「・・・俺は、死んだ妻との約束を破り、娘を戦士として育てた。だが、俺は娘をあんな形で失って以来、ずっとそのことを後悔していた。妻の言う通りに、普通の女の幸せを、花嫁として送り出せばこんなことにはならなかったと・・・」


道敷は死ぬ前に罪を懺悔するように力無くその言葉を言う


「『花嫁』、まさかデビッドのか?馬鹿な、ディビッドには生殖能力がない。あれは、最初から戦うためだけに作られたとお前も理解しているはずだ。それに、戦士の道を選んだのはレイラ本人だ。あの二人はもとより普通の人生など歩めるはずはなかった。お前のせいではない」


「そう育てたのは俺たちだろうが・・・がはっ」


道敷は人工血液を吐き出した


「もうしゃべるな、何を言ってももう、終わった話だ」


いや、まだ、終わっていないさ


「まだだと?何を企んでいる?」


「・・・人形使い《ピグマリオ》はお前だけではない」



2025年のウクライナの戦争でウクライナの狙撃兵は4km先のロシア兵を狙撃したという


ウクライナ側の証言だけで真偽は不明だが十分にあり得ることだ


狙撃可能な5k m圏内のビルや高台は警察や軍が徹底して空から調査を行なっている


そして慰霊祭が行われている墓地から10km先の廃ビルに一人の狙撃手がいた


それはランドルフと再会した、あの日、道敷が連れていた女のアンドロイドである


そして、その電子頭脳には道敷の情報化された脳のデータ、魂というべき、その情報をダウンロードされていた


道敷のオリジンを持ったそのアンドロイドは、『道敷迦具斗』本人と言っても過言はない


ランドルフは道敷が接近して、次官を暗殺すると読んでいた


その思考の裏を掻き、アンドロイドの自分に狙撃させる奇策


本体が死しても必ず、次官暗殺を達成しようとする怨念に似た執念


自分のオリジンを人形に転写する人形使いを超える人形使い


それが道敷迦具斗である


アンドロイドの目はすでに10k m先の次官を捕らえていた


「死ね、死んだ愛娘レイラのために、壊れた息子ディビッドのために」


『道敷』は巨大なスナイパーライフルの引き金を引いた


次官の頭を吹き飛ばすべく弾丸が発射される


弾丸が撃ち放てば、次官を撃ち抜けばそれが、戦争の引き金となる


戦いとなれば自分が手塩に掛けて育ててきた軍人たちが動き出す


娘を化け物の姿に変えて、息子を壊した連邦は今度こそ、この地上から抹消だ


その時こそ、訪れる平和の時にこそ、自分はレイラとデビッドを戦闘マシンとして育てた罪を償うことができるのだ


引き金を引いて、弾丸が発射された瞬間、道敷は勝利を確信した


この時、初めて彼は今日、気を緩めたのだ


「アテナ引力展開!」


ライフルから発射された弾丸が軌道から曲がり、赤い零戦の姿を模した飛空艇に吸い寄せられる


飛空艇の上には盾を持つ少女が乗っていた


その盾に磁石のように弾丸が惹きつけられて受け止められる


「さっすが!アテナMarkII!フェイさん、やるじゃん!」


弾丸を受け止めて嬉しそうに笑うメノウ


「なんだと!?」


ズカガガガガガガガガガガガ!!


赤い飛空艇『リベリオン』から機銃が掃射される


道敷はライフルを捨てて給水塔の裏に逃げ込む


給水タンクは蜂の巣にされて、噴き出してくる水が、道敷を頭から濡れる


ライフルは機銃に貫かれて破壊された


これにより、もはや、狙撃による次官の暗殺は不可能になった


「なんだ、あの飛空艇は。まさか、ラン、貴様は、俺が狙撃を奥の手にすることまで読んでいたのか!?」


ランドルフは相手の裏の裏までも読み通す


あの再会した日、すでに道敷の体が義体だと察していた


ならば、どうするか


ーー彼は必ず自分のオリジンを転写したアンドロイドに狙撃をさせるだろう。道敷大佐は合理主義者。一つの作戦に執着せず、必ず、二段構えで暗殺を成功させようとする。8km、いや10km、圏内の狙撃可能な建物に警戒するのだ


「さすがだ、ラン!俺を読み切っていたのか!それなのに今、俺は今、勝ったと油断をしてしまった!」


ズガガガガガガ!!


空からの銃撃から逃げ回りながら、道敷は自分の頭を叩いた


「しかし、生き延びてみせるぞ。この自己を識別するデータがある限り、暗殺は実行されなければならぬ」

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