第57話 遠呂智
「あれは、ランなの?レオン、大人の男の人みたいだよ」
スカディはレオンに尋ねる
「ああ、間違いない。俺もあの姿は見たことはないが、デビッド=シンとよく似ているところを見ると間違いない。しかし、義体が変身するとはどういう仕組みだ。これもアダマンチウムの性質なのかよ」
「どういうこと?二人は親子なの」
事情を知らないスカディはレオンに尋ねる
レオンは首を横に振った
「少し違う。その昔、完璧な戦士を作り出す『テュフォン計画』と呼ばれる計画がアルカディアであった。そのメインの遺伝子に軍事、魔術、学術、などの分野で優秀な成績を残したものの遺伝子を組み込む、いわゆるデザインベイビーを作り出す計画だ。イカれた学者どものイカれた研究の末、その遺伝子のメインになったのが、師匠ランドルフ=ピグマリオ、そして、生み出された戦士こそがデビッド=シンだ」
確かに遺伝子の提供者を父と言っていいのか、スカディにはわからなかった
しかし、だからと言って他人とも言いにくい
遺伝子的には親子と言えるランドルフとデビッドの本当の関係
その事実を知った時、ブライドはどう思うのか、どう感じるのかスカディは心配だった
「嬉しいぞ、ラン!その姿の貴様と再び出会えるとはな。全く、若い頃のデビッドとよく似ている。実に強く美しい姿だ」
「そうか、究極の少女を追求した私には男の姿はひどく醜く感じる。しかし、この姿でなくばお前は倒せないのでな」
歓喜する道敷の言葉にランドルフは苦笑いを浮かべた
この姿でなくてはお前は倒せない、けして、ハッタリではないことを道敷は知っている
全盛期の頃の青年の姿をした義体からは、先ほどまでの少女の義体と比べて放たれる魔力量は桁違いだ
少女の姿はいわゆるリミッターだった
ここからが本当のランドルフ=ピグマリオだということだ
「迦具斗、最後の勝負だ」
「応さ!」
道敷は再び掌に力をためて迦具土の構えをとり、呪文を詠唱する
ランドルフは左腕を胸の前にあげた
変形して左腕の中から黒いリボルバーが飛び出して、それが手に握られる
コルトパイソンに似ているが、シリンダーの数が八つある
通常のコルトパイソンが6連発に比べて、この拳銃は8連発撃てるという事である
銃のバレルにはHESTIAと刻まれているところを見ると、この銃はその義体『ヘスティア』に備わったものと見ていいだろう
つまり奴の一部であり、奴の奥の手であるもの
特に奴はオートマチック拳銃よりもリボルバー拳銃を好んだ
なぜ、装弾数が多いオートマチックより、装弾数が少なく、リロードに時間がかかるリボルバーを愛用するのか
昔、その話を聞いた時、ランドルフは笑ってこう言った
ーーリボルバーの形状、シリンダーの音、リロードの方法、全てが美しいからに決まっているじゃあないか
実用性を第一に考える道敷には考えられなかったが、己の美を追求するこの男ならば納得できるりゆうだった
その性質は彼の遺伝子を受け継ぐデビッド=シンにも引き継がれている
銃を構える姿は、まさにデビッド=シンと瓜二つだった
高速で撃鉄を上げて引き金が引き銃弾を放ってゆく
八発全てを打ち尽くすが、銃声は一発分しか聞こえなかった
ブライドと肩を並べる早撃ちである
一連の動作は完全に道敷の反応よりも早い
「目覚めよ、
ランドルフは呟いた
遠呂智とは日本の神話に伝わる八つの頭を持つ大蛇であり、水の精霊である
ランドルフの銃にはその水の精霊『
その加護を宿した八発の水の銃弾は炎に溶かされることなく道敷の鎧に着弾した
一発の銃弾では道敷のサラマンダーの鎧は砕けない
しかし、すべての弾丸が寸分狂わずに同じ弾道で放たれている
一発目の弾丸を後ろから撃ち放たれた七発の銃弾が押し込んだのだ
弾丸は押し込まれて道敷の人工心臓を貫いた
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